絵本には、世代や国境を超えて、たくさんの人に愛されているロングセラーが数多くある。時代が移ろっても色あせない作品の魅力について、山陰両県の絵本の専門家たちにリレー形式で読み解いてもらい、作品の世界にどっぷり浸ってみよう。初回は、米子市東町の児童専門書店えほんやとこちゃん店主の高橋素子さん。
◆いないいないばあ (童心社) ぶん・松谷みよ子、え・瀬川康男
子どもを引きつける絵
「いないいないばあ」から「ゲド戦記」まで―。「えほんやとこちゃん」のキャッチフレーズにも取り入れたこの絵本は、店主の私にとって一番思い入れのある作品です。
あるとき、5歳くらいの子がこの本のページを何回もめくっては戻し、めくっては戻しを繰り返していました。不思議に思って聞いてみると「おばちゃん、めくると、動物のしっぽが動くんだよ」。「いない いない ばあ にゃあにゃが ほらほら いない いない…」の後に、ページをめくると、ネコのしっぽが反対側に動いているのです。ネコの次に出てくるネズミとキツネのページも同じでした。それまで何十回もこの絵本を読んでいて、絵も見ていたつもりなのに、初めて気が付いた瞬間でした。子どもの「絵を読む力」のすごさを再認識しました。それからは、その子と一緒に何回もページをめくったので、見本の本がボロボロになりました。現在店頭の「見本誌」として置いているのは6代目です。
わが子が読んだ1980年版も、めくるところがちぎれてボロボロでした。きっと自分の力でめくって、動かしていたのでしょう。めくるという動作は、親指と人さし指を使わないとできません。指を動かすことは、脳を動かさないとできません。本を読むことは、指先から体、脳や心まで動かしている、ということなのです。
2000年から、赤ちゃんに絵本を手渡す活動「ブックスタート」が盛んになり、赤ちゃん絵本が次々と出版され始めました。赤ちゃん絵本は線がはっきりとして、原色がいい、といわれます。一方、「いないいないばあ」は全体的に淡い色で、動物の周辺は、はみ出した灰色があり、輪郭も太い線ではありません。でも、赤ちゃんは絵をじっと見ます。表紙に描かれている正面を向いているクマの目を見ています。赤ちゃんはしっかり見つめて、笑ってあげるとうれしいんです。「表紙のクマさんがおっぱいに見える」と言った子もいました。
動物の周りにはみ出した灰色こそが「動的な画」を生み出した、と、童心社会長の酒井京子さんは著書に記しています。さらに画家・瀬川康男さんの、子どもを観察し尽くした上で描いた絵が、物語をより深めていて、本作をロングセラー絵本に導いたといえるでしょう。こうした作品は、1人の人が人生で3回読む作品になり得ます。子どものとき、大人になって子どもと一緒に読むとき、それから老年期、自分のために読むときです。(柳田邦男著「みんな、絵本から」より)
最後のページは「こんどは のんちゃんが いない いない ばあ」。絵本を閉じてからも、読み手と赤ちゃんのいないいないばあ遊びにつながります。わらべ歌のように、何度でも楽しめる絵本なのです。 (えほんやとこちゃん店主)
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たかはし・もとこ 1953年、石川県生まれ。小学校教諭をしていた第1子の育休中、夫の地元・米子市へ移住。3児の子育て中に子ども劇場、家庭文庫活動に参加。おはなしグループだくちる・成実絵本の会を立ち上げ、99年に「児童書専門店えほんやとこちゃん」を開業。わらべうた研修会や鳥取県子ども読書アドバイザーなどの活動にも取り組んでいる。
■読者の声優しいタッチに温かさ
「いないいないばあ」ファンの読者から山陰中央新報くらし面LINEを通じて声が届きました。
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初めて与えた絵本の一つに「いないいないばあ」がありました。優しいタッチの絵に温かさを感じたのを覚えています。読み始めた頃は、「ないない、ないない、なぁぁぁ」と言って、バンバンッ!と小さな手で登場する動物たちを楽しそうにたたいていました。
7歳になり「それ、赤ちゃんの見る本よ」と言うようになりました。今ではすっかり食べ物がメインの絵本が大好きですが、根底には「いないいないばあ」の優しさと、絵本を見る楽しさが受け継がれていると思います。絵本を読んでるときのわが子は、今でもかわいらしく笑顔の多い子です。
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「いないいないばあ」は、孫たちが小さな時に読んでいました。「ばあ」のところで、孫たちも「ばあ」ってしていましたね。かわいかったです。絵本は懐かしい宝物です。
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「いないいないばあ」、うちには2冊あります。読みながら実際に「いないいないばあ」をすると、とても喜んでいました。この機会に、久しぶりにこの本を開いてみたら、子どもが幼児のときの思い出がよみがえってきました。