「ちいさなうさこちゃん」ディック・ブルーナぶん/え、いしいももこ・やく、福音館書店
「ちいさなうさこちゃん」ディック・ブルーナぶん/え、いしいももこ・やく、福音館書店
市ケ坪裕子さん
市ケ坪裕子さん
「ちいさなうさこちゃん」ディック・ブルーナぶん/え、いしいももこ・やく、福音館書店
「ちいさなうさこちゃん」ディック・ブルーナぶん/え、いしいももこ・やく、福音館書店
「ちいさなうさこちゃん」ディック・ブルーナぶん/え、いしいももこ・やく、福音館書店
市ケ坪裕子さん
「ちいさなうさこちゃん」ディック・ブルーナぶん/え、いしいももこ・やく、福音館書店

 ロングセラー絵本を取り上げ、山陰両県の専門家がリレー形式で読み解く企画の2回目は、安来市安来町の児童専門書店「子どもの本 つ~ぼ」店主の市ヶ坪裕子さんが担当します。

 子どもの時に初めて出会った絵本が、オランダの絵本作家ディック・ブルーナの「ちいさなうさこちゃん」でした。最近では、英語名の「ミッフィー」が一般的に親しまれていると思いますが、私にとっては誰が何と言おうと「うさこちゃん」の方が、しっくりとなじむのです。

 さて、その絵本のページをめくっていくと、いつも決まって目がとまってしまう場所がありました。それはうさこちゃんのおかあさん「ふわおくさん」の買い物の場面です。「ふわおくさんのかいものは さやえんどうにおいしいなし」。幼い私は、「これは『なし』じゃない」とつぶやくのです(それが、大人になってから「洋梨」だった、ということがわかるのですが)

 そんな風に何度も繰り返し読むうちに、うさこちゃんが大好きになり、ときにうさこちゃんは友だちに、そして自分自身になり、いつの間にか、唯一無二の存在になりました。

 大人になってからもう一度この絵本と出会い、じっくり読み返してみますと、実によくできた絵本だったのだ、と感心します。

 まず、登場人物が常に正面を向いていること。横顔の顔は一つも存在しません。これは、どんな時にも目をそらすことなく、子どもと正直に向き合いたい、という作者の強い気持ちの表れでした。そして「ブルーナカラー」と呼ばれる、赤・黄・青・緑・茶・グレーの6色! それぞれの色に作者のメッセージが込められています。

 絵本のサイズは、子どもの手に取りやすい約16センチの正方形。訳したのは児童文学作家の石井桃子さん。耳にやさしい、美しい日本語。だから、子どもだった私はうさこちゃんを通して、自分をまるごと受け止めてもらえているということ、世界中から見守られていることを感じ、安心して何度もこの絵本の世界へ入っていけたのでした。

 先日、テレビ番組で、現代日本を代表するクリエーティブディレクターの佐藤可士和さんがインタビューを受けていました。「影響を受けたのは何か」という問いに、「2、3歳の頃に見たミッフィーの絵本」と答えていたのです。「シンプルな線と色彩で描かれたものが特別好きで、ミッフィーの絵本だけが、ほかと全然違うと思って『かっこいいな』と思っていた」「形も正方形で、絵と真っ白いページには文字しか書かれていなくて、今思えば自分のグラフィックデザインの原体験になっている」と。

 佐藤氏をはじめ、たくさんの子どもたちに鮮烈な印象を与え、大人になってからも心に残る宝物のような絵本なのだと思います。

 約50カ国語に翻訳され、世界中の子どもたちに愛され続けているうさこちゃんは、今年で66歳。これからも、子どもから大人まで、幅広い世代に手に取ってほしい一冊です。

 (子どもの本つ~ぼ店主)

 (タイトルカット、似顔絵・くさなり)

 

 いちがつぼ・ひろこ 安来市生まれ。34年間の保育士時代に絵本の魅力に気付く。以来、好きな作家に会うため講演会に出掛けたり、研修を重ねたりして絵本のとりこになる。2017年3月、安来市安来町に書店「子どもの本 つ~ぼ」を開業。絵本など子どもの本を中心に、大人もわくわく、どきどきするもの、心和むもの、美しいものを届けられる店を目指している。

 =第1土曜掲載=