地元選挙区を歩く国会議員(右)=2019年2月、松江市内
地元選挙区を歩く国会議員(右)=2019年2月、松江市内

 舞台裏を知ると選挙はぐっと身近になる。新型コロナウイルス禍だからこそ、あらためて考えてみたい。衆院選を前に素朴な疑問をひもとく。まずは「コロナ禍なのに、国会議員の帰省はいいのか」。 (報道部・多賀芳文)

 5日、松江市内で開かれた自民党の衆院島根1区の選対会議で、地域の世話役から「コロナ対策は万全にしておいてほしい」と声が上がった。

 感染者数が全国最少の島根でも県民は感染拡大地域への移動自粛を求められ、会合やイベントの中止や縮小が相次ぐ。こうした中、日ごろ東京で過ごす国会議員が自分の選挙のために帰省する。さらに遊説先に住民を集めるとなれば、地域で説明が難しいからだ。

 選対幹部の福田正明県議は「自粛要請する立場の議員が帰省したり全国を回ったりするのかという有権者の思いはある」と重々承知。だからこそ、候補者や運動員には毎朝の抗原検査を義務付ける。街頭演説の動員は最小限に抑え、時間をかけて回ることなどで名前と政策を訴えるつもりだ。

▼個々の判断

 衆院事務局広報課によると、コロナ禍で議員の移動に制限はかけておらず、個々の判断に委ねられる。

 島根県出身の自民党国会議員の秘書の1人は「じかに会わなければ、票の出方に影響する。迷えば、有権者と接する機会を取る」と政治活動のあり方を説明する。

 この議員はワクチン接種を済ませ、首都圏での活動で「3密」の場をできる限り避け、帰省のたび、感染の有無の検査を徹底しているという。

 そもそも、国会議員には移動に関する特権がある。

 国会議員は当選後、JR無料パスのみ▽JR無料パスに加え、東京と選挙区間の月3往復の航空券▽月4往復の航空券|の三つの中から一つの権利を得る。

 地方の有権者の声を聞き、実情を見て国政に反映させる職務遂行に必要だと法が定めており、衆参両院で年間約9億円の国費が投じられる。

 コロナ禍でも国会議員は「職務遂行」のため地元と東京を移動している。

▼忘れられる

 1995年から2期12年間、参院議員を務めた景山俊太郎氏(77)=雲南市掛合町掛合=は「肉声できっちりと政策を訴え、国政の説明をしなければならない。さもなくば国会議員は地域で忘れられてしまう」と帰省の意義を説く。

 とりわけ、衆院選で93年まで採用された中選挙区制の時代は、県全域を選挙区として複数の当選者を決めたため、自民党議員同士も競争相手となった。「あの議員は帰省が少ない」と言われないよう、今以上に強い緊張感があったそうだ。

 先行き不透明なコロナ禍の今こそ、選挙区で政策を丁寧に説明し、有権者の声を聞く国会議員の本分が問われそうだ。