江津市松川町の森原下ノ原遺跡で、室町時代前半(14世紀後半~15世紀初頭)に重用された茶わん「灰被天目(はいかつぎてんもく)」が完全な形で見つかった。島根県埋蔵文化財調査センターが6日、発表した。良好な状態での出土は全国でほかに7例しかなく、山陰両県では初めて。茶の湯の文化が京都や鎌倉で定着し各地に伝わり始めた時代で、石見地方でいち早く親しまれた可能性を示す手掛かりになりそうだ。
センターによると、灰被天目は、浅く開いたすり鉢形の天目茶わんの一種。中国・福建省で作られ、黒い釉薬(うわぐすり)を基調としながら灰をかぶったようなくすんだ色合いがある。茶の湯文化の「わび・さび」の思想に調和する逸品として、足利将軍家や禅宗の僧侶ら室町時代の茶人に愛好された。
出土した灰被天目は最大直径12・1センチ、高さ6・3センチ、高台部分の直径が4・7センチ。内側に、抹茶をたてる際の茶せんの跡がくっきりと残り、使い込まれた品であることが分かる。
江の川下流域にある森原下ノ原遺跡は水上交通の要所で、貴重品を入手できる有力者がいたと考えられている。灰被天目の出土について、センターの仁木聡調査第一係長は「茶に素養のある地域の有力者が日常的に使っていたのではないか」と推測する。
江の川改修事業に伴い、センターが2019年から進める発掘調査で見つかった。8、9日にパレットごうつ(江津市江津町)、13~25日には島根県立古代出雲歴史博物館(出雲市大社町杵築東)で展示する。9日には現地説明会もある。申し込み不要で、午前10時半と午後2時の2回。当日の連絡先は仁木係長、電話080(2928)3462。 (佐貫公哉)