「震災から10年」。こう切り出すことで出来事の外側にいる私たちは、セレモニーに際するような厳かな気持ちを取り戻すと同時に、不明瞭で理解に余る細部を都合よく切り捨ててもいる。

▽吹きだまり

 そうした、震災をめぐるまなざしの欺瞞(ぎまん)に痛烈な光をあてた中編が、佐藤厚志の「象の皮膚」(「新潮」4月号)だ。物語は、仙台にあるチェーン系書店で契約社員として働...