島根県庁(左)と鳥取県庁
島根県庁(左)と鳥取県庁

 10月以降、新型コロナウイルスの感染者、死者が全国で減少傾向にある。山陰両県でも感染者ゼロの日があるなど、小康状態になっている。

 山陰両県の感染者数と死者数は国内でコロナ感染が確認されて以来、一貫して低水準。島根県が感染者1671人、死者5人、鳥取県は感染者1662人、死者5人(2021年10月20日時点)で、全国で感染者が2000人未満なのは山陰両県と秋田県のみ。山陰両県の感染対策や治療は他の都道府県と何が違うのか。両県の感染症対策本部と、コロナ患者を受け入れる医療機関に尋ね、2回に分けて伝える。(Sデジ編集部・吉野仁士)

 全国の感染者数をグラフで表した(2021年10月18日時点)。感染者数が最も多いのは東京都で37万7228人。続いて、大阪府、神奈川県の順。最も少ない鳥取県から三つ順位が上の福井県は3099人で、数字は山陰両県の倍に近い。山陰両県と同じく人口が75万人を下回る(同年9月時点)高知県や徳島県と比べても、明らかに感染者数が少ない。

 

▼全国に比べ少ない要因

 山陰両県内でコロナに対応し続ける担当者はどう分析するのか。島根県健康福祉部の公衆衛生医師、谷口栄作・医療統括監は「都心部と比べて人口が少ない分、陽性患者との接触者を幅広く検査できるからでは」と指摘した。感染者を確認した際、島根は感染者との滞在時間だけでなく、同一空間にいた人物まで可能な限り検査をする。都市部では追跡調査をする保健所の職員の数に対して、感染者の接触者の数が格段に多いため、検査の対象者を、感染者と長時間一緒にいた濃厚接触者に限る自治体が多い。島根は人口が少ない分、感染者を広く検査し、感染拡大を封じ込めることができている。

 谷口医療統括監は「県内では感染リスクが高まる行動そのものについて気を付ける人が多い印象。知り合いと雑談すると、普段から大人数での飲食を自粛したり、感染対策を徹底したりする人がほとんど。周囲に迷惑をかけない、真面目な県民性なのかもしれない」と、幅広い検査に加えて、真面目な県民性が感染防止に効果を上げていることを説明する。

 鳥取県の新型コロナウイルス感染症対策推進課の木原久美課長補佐も、県の早期検査、早期治療の徹底を大きな要因に挙げる。鳥取県は感染者とわずかでも接触があった人を検査対象とし、感染拡大を最小限に抑えた。木原課長補佐は「幅広く検査を進めて2次、3次感染を未然に食い止めたことが、全国と比べた感染者の低さにつながった」と分析した。

 死者数の低さも全国から注目された。山陰両県ともに一時期を除き、感染者全員が入院する方針を続けたことが重要なポイントだった。重症化リスクが低い軽症者を宿泊や自宅療養としたのは、感染状況が政府分科会の示す「ステージ3」相当だった時期で、鳥取は今年7月下旬から、島根は8月中旬から9月末までの間。ともにステージ3突入の傾向が見えた時点で切り替え、感染者の入院病床をいち早く確保した。谷口医療統括監は「万が一に備え、基礎疾患のある感染者や重症者が入院できない事態を未然に防げたことが大きい」と振り返る。

 

▼コロナ患者受け入れる医療機関の対応は

 コロナ患者に最も接触する機会が多いのは医療機関。山陰の感染者数と、死者数が低い理由には自治体の対応だけでなく、医療機関の対応も大きく貢献している。両県内で初の感染者が2019年4月に確認されて1年半になるが、感染の抑え込みを続ける医療現場はどのような治療と感染対策をしているのか。コロナ患者を受け入れる島根県立中央病院に話を聞いた。

 県立中央病院は県内唯一の高度救命救急センター。各科の専門医が24時間体制で待機し、広範囲熱傷や急性中毒といった特殊疾患患者を受け入れることができる。県内に8機関ある、コロナ患者を受け入れる「感染症指定医療機関」の一つとして治療にあたってきた。

 受け入れる患者は主に重症化する恐れがある人。総合診療部長の増野純二医師(53)は「多くは肺炎の症状がある中等症以上の人や基礎疾患がある人で、軽症者は比較的少ない」と話す。コロナ患者の入院先を決めるのは島根県広域入院調整本部だが、設備やスタッフが整っているため、高度な治療が必要な患者が搬送される。

島根県立中央病院の増野純二医師

▼感染が発覚したら?

 感染発覚から入院までは医療機関と保健所、島根県が連携して対応する。医療機関や検査センターで陽性が判明すると、保健所が県に連絡し、島根県広域入院調整本部が患者の症状や居住地から判断して入院先を確保する。患者には保健所から陽性の判明結果と入院先の連絡が届き、原則、結果判明の翌日までに入院する。

 患者が病院に行く際は途中で人と接触しないよう車を使う。軽症の場合は1人で運転するか、家族や友人1人に運転してもらうよう、保健所が事前に伝える。陽性判明時に既に患者が重症だった場合は救急車で病院へ搬送する。

 県立中央病院では普段は使わないコロナ患者専用の入り口で受け入れ、感染対策を施した専用の車椅子に乗ってもらい、病室まで運ぶ。治療方法は入院後の血液検査とレントゲン検査をした上で、血中酸素濃度の低下度合いや肺炎の有無から総合的に判断して決まる。

 

▼来院から病室まで「厳戒態勢」

 県立中央病院が患者の入院時に特に注意を払うのが、「入院経路の徹底した動線分け」。コロナ患者が入院する際、一般利用者と患者の動線は入り口から病室まで、徹底して分けられる。「一般の利用者と接触しないよう来院時間を調整し、専用の入り口から入る。患者は防護服を着た医師と看護師が、車椅子に乗せて専用のエレベーターで病室へ行くため、利用者と絶対に交わらない」(増野医師)。入り口から移動手段、病室まで全て他の患者と全く違う厳戒態勢で対応する。

 患者が乗る車椅子は透明フィルムで囲われ、陰圧装置という、フィルム内部の気圧を低くする機械を搭載している。空気は気圧が低い方へ流れるため、患者が座るフィルム内の気圧を外部より低くすることでウイルスがフィルムの外に流れ出ない。

陰圧装置が搭載された車椅子。フィルムは患者のプライバシー保護も兼ねる

 看護師の勤務態勢にも気を配り、コロナ患者に対応した看護師は一定期間、別の患者の看護に当たらない。対応した看護師からの2次感染を防ぐための処置で、看護師が万が一感染したとしても、拡大を食い止められる。

 患者は基本的に特殊な「陰圧室」に入院する。車椅子に搭載した装置の大型版で、室内の空気は部屋の外に漏れない。

 入院後の感染対策も欠かせない。病院内で職員が立ち入る空間は大きく3区分し、患者のいる空間に入れるのは防護服を着用した職員のみ。空間の境界に「空気感染隔離ユニット」という陰圧機能を備えたテントのような器具を設置して、境界は目で見て分かる。ユニットによって感染者がいる空間の空気が遮断される上に、感染対策をしていない職員が気付かずに患者のいる区間に立ち入ることもない。

島根県立中央病院で使う空気感染隔離ユニット。コロナ患者が療養する空間との目印になる

 現在の態勢ならば、仮に患者の入院後にウイルスが病室外に出ても、病院全体に広がらない。増野医師は「ウイルスは目に見えないから不安に感じる。目視することで、医師や看護師がより安全かつ確実に対応できる」と対策の有効性を説明する。

 

 全国と比較した山陰両県の感染者数の低さは、両県の早期検査と治療、医療機関の感染防止の徹底が寄与した。現場の医師や看護師たちは実際にどのようなコロナ治療に当たったのだろうか。<下>では医療機関の具体的な治療方法と今後の注意点について考える。