静岡県熱海市で7月に起きた大規模土石流で、起点となった土地の不適切な盛り土。これに対して熱海市が2011年、県土採取等規制条例に基づいて安全対策を講じるよう求める措置命令や事業停止命令を検討したものの、最終的に見送ったことが明らかになった。

 県、市による発生原因の究明、行政手続きの検証の過程で分かった事実。土砂の崩落によって住民の生命と財産に危険を及ぼす可能性も県市で共有しながら、なぜ検討していた措置命令などを業者側に出さなかったのか疑問が残る。

 盛り土が引き金になったとされる大災害で26人が死亡した。遺族側が行政に過失があったと考えたとしても不思議はない。県と市には徹底した検証を求めたい。

 措置命令を見送った理由について、斉藤栄市長は記者会見で、土地所有者側が「不十分ながら防災工事を実施したこと」などを挙げた。一方で、県の難波喬司副知事は「個人的には出すべきだったと思う」と述べており、見解が分かれている。

 ただ、斉藤市長は対策が不十分だった経緯が明らかになったことから「人災としての側面も否定できない」とも語った。行政の対応に落ち度があった可能性があるとすれば、身内だけによる検証は避けるべきである。

 県は第三者による「行政対応検証委員会」を12月に設置するとしている。業者側からもヒアリングした上で、職員らの対応に問題がなかったか、もっと早い段階で対策ができなかったか、警察と連携しながら厳しい措置ができなかったのかなどについて、透明性を確保しながら評価し、遺族も納得できる結論を導いてほしい。

 盛り土を巡っては、全国で3万~4万カ所を対象に安全性に問題がないか国が総点検する見通し。さらに内閣府の有識者検討会で危険性が高い箇所への対応策や法律による規制の在り方について議論を始めた。

 都道府県レベルでは26都府県が盛り土を規制する条例を定めており、この土石流を契機に条例の検討を始めた県もある。全国知事会など地方6団体は、規制の強化を含めた法制度の整備を国に要望している。

 法令に基づかず、自治体が条例で定める罰則については地方自治法で「懲役2年以下、罰金100万円以下」などと上限があり、抑止力としては弱い。一方、産業廃棄物の不法投棄は廃棄物処理法で懲役5年以下、罰金1千万円以下(法人3億円以下)だ。盛り土規制の実効性を高めるには厳しい罰則が可能な新法が有効ではないか。

 熱海の行政対応を見て1980年代から問題化した香川県・豊島の産業廃棄物の不法投棄事案を思い出した。香川県が指導監督を怠ったことが被害を拡大させた。結果として県は、総事業費約800億円をかけて、計91万トンの産廃を島外に撤去し原状回復している。

 不法投棄した事業者が破産すれば、行政が代わりに処理せざるを得ない。不適正な盛り土も同じ構図である。対応を怠れば、災害が起き、税金による尻ぬぐいに追い込まれるのである。

 豊島の教訓に学べば、早期に対応した方が被害も負担も軽減される。不適切な盛り土が住民の生命に関わる問題を引き起こすと本当に想像できていれば、もっと早く対応できたはずである。