職場の新型コロナウイルス感染対策を巡り、マスク着用やワクチン接種を推奨する会社側の対応に、従業員らが悩みを訴える労働相談が相次いでいる。専門家は「不利益がないよう慎重な対応が必要だ」と指摘する。
「マスクを着用しないと就業規則違反で懲戒処分になると言われた」(不動産業・30代男性)
「PCR検査を受けるよう指示されたが、検査費は自己負担とされた」(派遣社員・男性)
連合には職場の感染対策に関する相談が昨年~今年10月中旬、少なくとも数十件寄せられている。当初は対策そのものが不十分という声が多かったが今年は対策を巡って不当な待遇を受けたとの訴えが増えている。ワクチン接種が進んだ8月には「接種を受けなかったことを理由に懲戒解雇とされた」(介護職・60代女性)との相談もあった。
労働契約法は雇用主に従業員の心身の安全を守る義務を課している。連合の担当者は、感染対策も義務に含まれるとする一方で「行き過ぎた対応は新たなハラスメントになりかねない」と話す。
マスク着用を巡っては訴訟に発展した事例もある。職場で着用しなかったことを理由に解雇されたとしてKDDI子会社「KDDIエボルバ」(東京)のコールセンターの契約社員だった男性が3月、同社に雇用契約の確認を求め、大阪地裁に提訴した。
労働問題に詳しい谷真介弁護士は「安全な職場環境は労使間で話し合って整備するのが原則」と指摘。「特に不安定な立場にある非正規労働者は、感染対策を盾にした不利益の標的とされやすい」と懸念を示した。