政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は、緊急事態宣言を判断する際に新規感染者数より医療の逼迫(ひっぱく)状況を重視する新指標を決めた。ワクチン普及などを踏まえ「ウイルスとの共生」へ局面転換する狙いだ。

 だが冬に「第6波」の可能性があり、感染再拡大を早期把握できる検査体制、最悪の事態に対応可能な医療体制を整えなければならない。その確実な実施を今回の指標見直しの前提とすべきだ。

 海外からの入国を厳しく制限してきた水際対策も大幅に緩和された。現状のように感染が下火になれば、社会経済活動の本格化を止める理由は見つけにくい。ただ欧州、シンガポールなど高いワクチン接種率でも、経済再開で感染再拡大を招いた例は多い。行動制限緩和に踏み切る政府、自治体は、警戒を怠ってはいけない責任が逆に強まったと肝に銘じるべきだ。

 従来指標は新規感染者数、病床使用率など7項目に基づき4段階で状況を評価。1週間の人口10万人当たり新規感染者数が25人以上などになった場合をステージ4とし、宣言発令の目安とした。

 新指標は病床数の予測ツールを活用し5段階で判断。一般医療を制限しなければ適切に医療対応できなくなるレベル3で、緊急事態宣言などの強い対策を講じることになる。ワクチン、治療薬がある程度行きわたれば、感染者数が拡大しても入院治療を要する重症者は抑制できる。故に今後は感染者数より病床逼迫度に注目して緊急事態に備えればよいとの判断だ。

 2年近いコロナとの闘いで疲弊した経済を再生させる上で合理的な考え方だが、心配も残る。第一に、また爆発的感染となれば割合は小さくなるとはいえ重症者数は増える。やはり感染者数の監視はきちんと続けるべきだ。第二に、不十分と指摘され続けてきたPCR検査などを公費負担で早期に広範囲で徹底的に実施しなければ、病床逼迫を予兆から察知するのは難しい。そして、第5波を上回るリバウンドにも対応できる病床をきちんと確保できるかだ。

 一方で政府は「経済界からも強い要望がある」として、外国人のビジネス関係者や留学生、技能実習生らに対する入国制限を大幅に緩和。ワクチン接種済みの3カ月以内の短期滞在者は入国後の待機が最短3日となり、日本人帰国者らも10日から3日に短縮された。

 グローバル経済の中、日本だけ厳しい水際対策を続ける「鎖国状態」では国際競争に勝ち抜けないという悲鳴には配慮が必要だろう。しかし、各国が門戸を開放し合うことは、世界的な感染拡大リスクと裏腹だということを忘れてはいけない。

 また政府は、飲食店への時短営業要請、大規模イベントに求めていた観客数1万人上限を既に解除し、昨年末に停止した観光支援事業「Go To トラベル」再開を検討している。ワクチン接種や陰性の証明書活用とセットになる方向だが、接種後に感染する「ブレークスルー感染」やワクチンが効きにくい変異株の出現を警戒し、すぐにブレーキをかけられる備えも必要だ。

 ドイツは1日当たりの新規感染者数が昨春の流行拡大以降の最多を更新するリバウンドに見舞われ、欧州全体では来年2月までに新たに50万人死亡する恐れが指摘される。対岸の火事と甘く見ることは許されない。