台湾が「自由と民主主義」の価値観共有を訴えて欧州連合(EU)や東欧諸国などとの外交を活発化させている。中国は台湾の蘇貞昌行政院長(首相)ら3人を「台湾独立勢力」と非難し、中国渡航を禁じる異例の制裁措置を発表した。中国軍機の台湾防空識別圏進入も急増し、中台対立が激化してきた。

 米中の覇権争いの中で、米国は自由主義陣営の対中包囲網づくりに加え、台湾への外交・軍事面の支援を強化。中台統一を目指す中国は台湾の離反と国際社会での存在感の強まりを警戒する。軍事的な示威行為は偶発的な衝突を招きかねない。中国は軍事威嚇を停止し、台湾の自立性を十分に尊重して、平和的な共生に向けて対話を始めるべきだ。

 中国は「一つの中国」の原則に基づき台湾の国際機関加盟を妨害。2016年に独立志向の民主進歩党の蔡英文総統が就任後は国際社会での台湾孤立化戦略を推進。それまで台湾に認めていた世界保健機関(WHO)総会へのオブザーバー参加も阻止した。台湾が外交関係を持っていた22カ国のうち7カ国を奪い取る形で国交を結んだ。

 ブリンケン米国務長官は今年10月、国連専門機関などからの台湾排除について「国連や関係機関の機能を損なう」と批判、台湾の参加支持を国連加盟国に呼び掛ける声明を発表した。

 WHOからの排除は台湾住民の命と健康を脅かす行為だ。日本は米国などと共に台湾の国際機関参加を後押ししたい。

 中国の制裁を受けた一人の呉〓(金ヘンにリットウ)燮外交部長(外相)はスロバキアやチェコを歴訪。蔡氏は訪台したEU欧州議会議員らの公式代表団と会談した。価値観外交による孤立化戦略への巻き返しだ。

 日本は1972年の日中国交正常化の共同声明で、中国を「唯一の合法政府」と認め、台湾は自国の領土だとする中国の立場を「十分理解し、尊重する」と明記した。

 国交正常化に伴って日本と台湾は断交したが、日台の人々の多くは相互に親近感を抱き、経済関係も緊密だ。日本として近隣の中台双方との関係維持は不可欠だ。「一つの中国」の原則を認めつつ、いかに台湾を支援するか真剣に考えたい。

 中国軍機の防空識別圏進入は昨年約380機、今年は既に約680機。日米英などが沖縄南西海域で共同軍事訓練を行った10月初めの進入は4日間で149機に上った。

 日米豪印4カ国は同月中旬、インド沖ベンガル湾で共同訓練を実施。中国とロシアは海上合同巡視活動を展開し、両国の軍艦が日本を周回した。

 軍事的な示威行動は相互不信と軍拡競争という「負の連鎖」を招く恐れがある。両陣営は抑止効果を期待するが、結果として「挑発」になれば逆効果であり、軍事行動には慎重であるべきだ。

 中国の習近平国家主席は10月の辛亥革命110年の祝賀演説で「一国二制度」による中台統一を改めて呼び掛けた。しかし蔡氏は「主権と国土を守る」と一蹴し、中台の「対等な対話」による緊張緩和を訴えた。

 中国が一国二制度を認めていた香港への統制強化で、台湾住民の対中不信は強まった。中台の和解には、中国が中台分断の現実を認めて、台湾の自由と民主主義を尊重し、武力行使を放棄することが先決だ。日米欧もこの点を中国に訴えたい。