いま国民が必要とする経済対策と言えるのだろうか。自民、公明の与党が合意した18歳以下の子どもへの10万円給付だ。新型コロナウイルス禍で困窮する家庭や子どもへの支援に異論はない。だが一定以上の所得のある世帯も対象とするのは合理性を欠く。財源は国民のお金であり、乱暴な使い方は政治への信頼を損ねるだけだ。
衆院選で勝利した岸田文雄首相は今月中旬をめどに大型経済対策をまとめる方針で、子ども支援はその最大の柱となる。
自民、公明両党は具体策を巡り、18歳以下の子どもを対象に1人10万円の給付で合意した。現金5万円を先行して配り、来春をめどに子育てなどに使途を限定した5万円相当のクーポンを支給するという。
先の衆院選で公明党は公約に10万円給付を掲げており、同党の主張が通った形だ。自民党は衆院選に加え来夏の参院選でも公明の協力が欠かせず、党内や政府内に難色の声がありながらも受け入れざるを得なかったのが実情であろう。
そう考えれば今回の10万円給付は経済対策というより、選挙対策との見方が妥当かもしれない。
財政出動を伴う経済対策を打つのであれば景気認識や必要性について政府や与党内でしっかり議論して当然だが、その点でも疑問がぬぐえない。
コロナの緊急事態宣言などが全国で10月から全面解除され、経済活動は徐々に活発化。上場企業の9月中間決算は、海外景気の拡大などを受け自動車や電機が堅調で、鉄鋼をはじめ素材メーカーも復調した。一方で航空、鉄道や宿泊などの観光関連は戻りが鈍く、景気は依然二極化にある。
対策が焦点を当てるべきは後者の産業や、コロナ禍のしわ寄せを受けている世帯、非正規労働者、学生などである。
ところが10万円給付の対象を巡っては公明が一律を主張、自民は年収960万円の所得制限を求めた。家計調査によると昨年の勤労者世帯の平均年収は約730万円であり、両党案ともに余裕のある世帯が給付対象になる点に変わりはない。
安倍政権がコロナ対策で国民一律に10万円を給付しながら消費効果が乏しかったのは、必要性が低く、多くが貯蓄へ回ったためだ。その反省と検証が今回は欠けており、理解に苦しむ。
10万円給付の対象は約2千万人で予算は2兆円規模の見込み。政府は経済対策の財源確保のため2021年度補正予算案を近く編成の予定だが、今回の給付では20年度の決算剰余金約4兆5千億円を使う案などが検討されているもようだ。
子どもへの給付に国債で借金することへの批判回避が狙いとみられるが、剰余金の半分以上は過去の借金返済に充てるのが財政法の本旨だ。
給付に剰余金を活用したとしても、自公はマイナンバーカード保有者への新たなポイント付与事業などでも合意しており、これらの施策で借金に頼るのであればその場しのぎにすぎない。
岸田首相は対策の財政支出を30兆円超とする方向だが、実効性を伴わない「規模ありき」ならばやめるべきだ。
会計検査院が19~20年度のコロナ対策事業を調べたところ、予算額65兆円超のうち支出されたのは65%にとどまり、21兆円余りが繰り越された。規模ありきの非効率さを示していよう。