岸田文雄首相の第2次内閣が発足した。1カ月余りで終わった第1次内閣は、岸田首相が衆院選にほぼ専念したため、内政、外交とも具体的成果を上げていない。早急に対処しなければならない課題が山積しているが、国民の「共感」こそ、政策推進の原動力であることを心に刻み、政権運営に当たるべきだ。

 第2次岸田内閣で首相は、林芳正氏を茂木敏充氏の後任の外相に起用した以外、第1次内閣の閣僚19人を再任した。外相の交代は、衆院選の小選挙区で敗北した甘利明氏の自民党幹事長辞任に伴い、茂木氏が幹事長に転じたことによる。

 重要閣僚と党運営の責任者を入れ替えるという異例の人事だ。首相はなぜこうした事態に追い込まれたか省みる必要があろう。

 甘利氏が小選挙区で当選できなかったのは、経済再生担当相在任中に発覚した金銭受領問題を巡り、納得いく説明がなされていないとの不満が有権者にあったからだ。 

 首相は衆院選後、自民党総裁として臨んだ記者会見で「わが党に対し、多くの厳しい声も寄せられたことを厳粛に受け止めなければならない」と述べていた。

 にもかかわらず、安倍晋三元首相時代から積み重なってきた不祥事の真相解明には消極的な受け答えに終始している。国民に理解される姿勢とは言い難い。このまま見過ごして今後、同様の問題が起きれば、首相が衆院選で得たという「信任」は揺らぎ、政策遂行にも支障を来すと指摘しておきたい。

 岸田首相はこれまで新型コロナウイルス感染症対策の強化と停滞する経済再生への決意を繰り返し強調してきた。

 コロナ対策では、無料検査の大幅な拡大に加え、入院が必要な感染者を病院が確実に受け入れる体制の整備、病床使用率を病院ごとに明示できる仕組みづくりなどを列挙している。

 感染者急増への備えが十分でなく、緊急事態宣言を繰り返した菅前内閣の轍(てつ)を踏まないためには、当然求められる対応である。

 重要なのは、これらの施策を着実に実行するとともに、感染状況に合わせて国民が取るべき行動について協力してもらうことだ。「最悪の事態」を想定し、新たな法的措置も講ずるというのであれば丁寧な説明は欠かせない。

 財政支出が30兆円超とされる経済対策についても、必要性や実効性を説明する責任を負っている。18歳以下の子どもに対する10万円相当の給付には所得制限を設けることになったが、「ばらまき」批判は根強い。

 首相は外交・安全保障上の懸案にも本格的に取り組むことになる。日米同盟を基軸にするにしても、米国に追従する形で北東アジア外交、中でも対中国や対北朝鮮外交を展開し、防衛力を増強することに国民の賛同を得られるのか。

 行き詰まりをみせる韓国やロシアとの関係を含め、各国の国民感情を悪化させないために首脳レベルの積極的な対話を促したい。

 「難しい課題に挑戦していくためには、国民の声を真摯(しんし)に受け止め、信頼と共感を得られる政治が必要です」。首相は10月8日、就任後初めて行った所信表明演説でそう訴えた。認識は正しいが、言葉の真贋(しんがん)が明らかになるのはこれからである。