小笠原諸島の海底火山噴火で生じた軽石が約2カ月後、千キロ以上離れた鹿児島県や沖縄県の島々に漂着し、漁業や観光などに大きな被害が出ている。火山による自然災害であり、大雨や地震の災害と同様に、国による手厚い支援は当然だ。

 漁業被害では、軽石が流入して漁港が使えず漁に出られないことがある。エンジン冷却のため船が海水と一緒に軽石を吸い上げ故障する恐れがあるからだ。ショベルカーを使ってすくい上げるなど地道な撤去作業が続いている。

 国はこの費用や必要な資機材の支援を加速させたい。さらに、ポンプを使うなど軽石を効率的に回収する方法について、専門家の意見を聞きながら早急に対応策をまとめるよう提案する。

 モズク養殖も種付けした網を海に設定する作業ができないままだ。港内のいけすに入れて蓄養していた魚が軽石をのんで死ぬ被害も報告されている。これら被害についても生産者の意欲を保てるよう支援が求められる。

 また鹿児島県の与論島では、タンカーが接岸できないため発電用重油の供給が滞っている。重要な港湾については、離島の生活に影響が出ないようにするためにも優先的に撤去すべきだ。港湾が長期間使えなくなった際の備蓄や対応策もあらかじめ考えておきたい。

 白い砂浜が軽石に覆われ一つの観光の魅力が失われている。全てを取り除くことは難しいが、撤去した軽石を集め捨てる場所の確保や有効活用策も合わせて、何らかの措置ができないか検討も必要だろう。

 軽石は黒潮に乗って漂流しており、高知沖などでも確認されている。今後、四国、本州の太平洋岸を中心に漂着する恐れがある。船舶の故障につながるだけに、港湾に軽石が流入しないようにフェンス(汚濁防止膜)を準備するなど関係機関による警戒と準備の加速も待たれる。

 原子力発電所では、原子炉の冷却に使う海水の取水設備に影響が出る恐れがある。原子力規制委員会が電力会社に対し注意喚起しているが、今の準備で万全なのかも含め確認が不可欠と言える。

 浮き彫りになった課題もある。沖縄に漂着する前に軽石の流れを監視、把握していれば、フェンスを張るなど港湾に入れない対応ができたのではないか。過去にも量が少ないとはいえ軽石が漂着したことがある。国は海底火山の噴火後、最悪のケースを想定しながら警戒しておくべきだった。

 また、軽石がサンゴ礁など沿岸の環境に与える影響をモニタリングできる重要な機会である。学者らと協力し、データ収集にも力を入れたい。

 大きな自然災害が起きると、想定外として思考停止する傾向がある。だが不測の事態への対応ができる知識、仕組みを整えることによって災害に強い強靱(きょうじん)な社会を実現できる。国内には多くの火山があっていつ噴火しても不思議はない。富士山など他の火山噴火への備えを点検、充実させる契機にすべきだ。

 海には日常生活から排出されたポリ袋などのプラスチックごみが漂っている。多くの魚や海鳥が誤って食べて死んでおり、生態系に悪影響があるとされる。軽石の漂流を一つのきっかけとして、こういったプラスチックの漂流についても思い起こし、対策を前に進めてほしい。