混雑する飲食店街で働く従業員(左)=26日、東京都千代田区
混雑する飲食店街で働く従業員(左)=26日、東京都千代田区

 新型コロナウイルス流行の緊急事態宣言が解除されて約2カ月が過ぎ、客足が戻ってきた飲食店は人手不足に陥っている。酒類提供や営業の自粛によりコロナ禍の打撃が特に大きかった居酒屋チェーンなどから従業員が離れ、一部は好業績のファストフード店に流れるといった二極化が進む。

 週末の26日午後8時すぎ、東京・JR新橋駅近くの居酒屋は満席で、仕事帰りの客が酒を飲みながら談笑していた。従業員が忙しそうに立ち回り、入店を待つ客の中には諦めて去る人の姿も見られた。

 店を運営する外食大手ワタミは、コロナ禍前に約1万人いたアルバイトが半数ほどになった。渡辺美樹会長兼社長は、赤字決算を発表した12日の記者会見で「人手が足りない」と焦りをにじませた。居酒屋などは、応募者が求人を下回る「売り手市場」(人材紹介会社)だ。

 ▼追い風に

 ファストフード業界では事情が一変する。牛丼チェーン「すき家」は、10月のアルバイト応募者数がコロナ禍前の2019年10月を上回った。運営会社は「居酒屋を辞めた人たちが応募してきたようだ」と分析する。

 マクドナルドやケンタッキーフライドチキンも同様の傾向だ。持ち帰りや宅配で「巣ごもり」需要を取り込み、コロナ禍がむしろ追い風になった。運営会社が直近に示した全店売上高はいずれも過去最高を記録。居酒屋などとは対照的だ。

 ▼切り捨て

 リクルート(東京)によると、飲食業の時給は三大都市圏(首都圏・東海・関西)の10月平均で前年同月から2・4%増え、過去最高の1050円だった。それでも居酒屋などにアルバイトが戻らない背景には、別の理由もある。

 外食大手が運営し酒類を提供する都内のレストランでアルバイトをしていた男性(52)は、昨年3月末からシフトを外されたが、休業手当が支給されなかったという。同僚らも辞めていったが、店は最近になって復帰を呼び掛けている。男性は「従業員を切り捨てながら、何をいまさら。虫が良すぎる」と突き放す。

 「全対象者に休業手当を支給した」(ワタミ)という企業がある一方、非正規労働者を中心とした休業手当の不払いはコロナ下で広く問題となった。労働組合「首都圏青年ユニオン」によると昨年以降、居酒屋の従業員などから不支給の相談が約千件寄せられた。

 第一生命経済研究所の星野卓也主任エコノミストは「居酒屋の需要がさらに戻ってくれば、人手不足は強まる」と分析。今後は働き手による職場の選別が一層進む可能性があるとして「企業側は本腰を入れて待遇を改善しないと、問題は解消されない」と強調した。