東京地検特捜部は所得税約5300万円を免れたとして、所得税法違反容疑で日本大学理事長の田中英寿容疑者を逮捕した。田中容疑者は1日の臨時理事会で理事長職を辞任した。

 日大医学部付属病院の医療機器調達などに絡み、4億円余りの資金を不正に流出させて大学に損害を与えたとして背任罪で起訴された側近の元理事ら2人がそれぞれ田中容疑者に数千万円を渡したと供述している。

 背任事件の関係先として、特捜部は田中容疑者の自宅を家宅捜索し、1億円を超える現金が見つかった。しかし田中容疑者は元理事らとの現金授受を全面否定。日大広報部は「理事長の役員報酬や妻が経営する飲食店の利益など個人的な財産」とし、税務申告に問題はないと説明していた。

 背任事件で特捜部は田中容疑者の立件を見送ったが、元理事らの供述を基に脱税を立証できると判断したとみられる。田中容疑者は13年にわたり、7万人近い学生を擁する国内最大規模の日大でトップの座にあり、理事や幹部の任免に絶大な権限を振るった。その〝独裁体制〟が二つの事件で表面化した利権構造につながったといえよう。

 学内の誰も逆らえない、チェックできないという「ガバナンス(組織統治)」の欠如は深刻と言うほかない。日大は特捜部の捜査に頼らず、有識者らから成る第三者委員会を発足させて独自の調査により事件の事実関係や背景を明らかにし、うみを出し切るべきだ。

 背任罪で起訴された日大元理事井ノ口忠男被告は大学の全額出資で設立された「日本大学事業部」を任され、2017年に理事に就任。翌年、コーチを務めていたアメリカンフットボール部の選手が危険なタックルで相手チームの選手を負傷させた問題で加害選手らに口封じを図ったことが発覚したため、事業部を離れ、理事を辞任した。

 その後、19年12月に取締役として事業部に戻り、20年9月には理事に復帰。田中容疑者の威光をバックに、保険代理店事業から資産管理まで幅広い業務を手掛ける事業部の全てを取り仕切ったとされる。外部からのチェックは働かなくなり、付属病院の建て替え工事や医療機器納入で本来、取引に不要な大阪市にある医療法人・錦秀会前理事長の籔本雅巳被告の関係する会社を介在させるなどし、資金を流した。

 井ノ口被告は約5千万円、籔本被告も約1億円の利得を手にし、それぞれ謝礼や理事長再任の祝いなどの趣旨で田中容疑者に数千万円ずつの現金を渡したと供述している。授受は合わせて1億円を超えたとみられる。

 田中容疑者は危険タックル問題で公式な場に姿を見せず、理事長としての説明責任を果たしていないと日大の第三者委から厳しく批判されたが、その姿勢は今回も変わらなかった。

 しかし、田中容疑者の辞任が決まると臨時理事会で、加藤直人学長が理事長を兼務することを決定。それ以外の30人以上の理事全員が辞表を出した。医学部付属病院を巡る背任事件の被害届提出もやっと決まった。

 相次ぐ事件によって大学のイメージが大きく傷ついたにもかかわらず、学生や保護者、120万人を超すOBに対し事件に関する説明らしい説明はこれまでしていない。トップ逮捕という前代未聞の不祥事に進んでメスを入れ、説明責任を果たす以外に立て直しを図る道はない。