9月のドイツ連邦議会(下院)選挙で第1党となった中道左派の社会民主党(SPD)が環境保護政党「緑の党」、中道の自由民主党(FDP)と新たな連立政権樹立で合意し、政策文書に核兵器禁止条約の締約国会議へのオブザーバー参加を盛り込んだ。

 ドイツは北大西洋条約機構(NATO)の加盟国だ。米国の核爆弾を今も領土内に配備しており、有事には、米軍から譲り受けた核爆弾をドイツ軍の戦闘機が運用する「核共有」の一翼を担う。

 冷戦後、NATOは折に触れて「核の同盟」であることを確認してきた。ドイツはそのど真ん中に位置してきたと言ってよく、最近は対中強硬姿勢を強める米国と歩調を合わせ、インド太平洋を重視している。

 そんなドイツにリベラル派主導の新政権が16年ぶりに誕生し、来年3月開催予定の核兵器禁止条約締約国会議へのオブザーバー参加を決めたことの意義は極めて大きい。

 なぜなら、ウクライナ国境近くで軍事活動を強めるロシアの脅威や、急激な軍拡路線に傾く中国への懸念にもかかわらず、安全保障政策における「核兵器の役割低減」を追求する具体的な動きだからだ。

 加えて、ドイツ新政権の視線の先に「核兵器のない世界」というビジョンが明確に存在することも非常に重要だ。新外相に就任予定の「緑の党」のベーアボック共同代表は、独有力誌シュピーゲルの最近のインタビューにこう語っている。

 「連立政権の合意には核共有へのコミットメント(約束)が含まれている。同時に私たちは、核兵器のない世界と核兵器のないドイツという共通目標を再確認した。ドイツは核兵器禁止条約締約国会議のオブザーバーとして核軍縮を唱道していく」

 バイデン米政権はトランプ前政権より核軍縮に熱心だが、同条約は支持しておらず、同盟国のオブザーバー参加にも反対する立場に変わりはない。

 それでもドイツ新政権が参加を決めたのは、大国間競争を背景に核軍縮が進まない現実を、核廃絶の理想に少しでも近づけたいとの強い思いがあるからではないか。また、分断が近年深まる核保有国と非核保有国の溝を何とか埋めたいとの熟慮が働いた結果ではないのか。

 核大国である米ロの核軍縮が足踏みし、中国は核戦力増強にまい進している。さらに極超音速兵器の開発や人工知能(AI)の軍事利用、サイバー攻撃の頻発化といった新たな不安定要因が米中関係と米ロ関係をより複雑にし、核軍縮機運をそぐ一因となっている。

 そんな厳しい環境下で、「核の傘」の下にありながらもオブザーバー参加にかじを切ったドイツの英断を称賛したい。

 核抑止が未来永劫(えいごう)、機能するとの保証はどこにもなく、核使用のリスクをゼロにするには、人類全体が核廃絶へ歩を進めるしかないからだ。

 NATO同盟国では他にもノルウェーがオブザーバー参加の見通しだ。

 翻って唯一の被爆国の日本はどうか。核保有国が加わっていないことや、米国の核抑止力を理由に岸田文雄首相は後ろ向きだ。被爆地選出で「核兵器のない世界」を唱える政治家であるにもかかわらずだ。ドイツ新政権の判断から学び、オブザーバー参加の道を真剣に考えるべきだろう。