米国が主催した初の「民主主義サミット」は多くの課題を残した。中国やロシアなど拡張する「専制主義国家」に対抗して連携を狙ったのだが、当の民主主義陣営の国家内で民主主義政治の後退が顕著になっている。

 バイデン米大統領は演説で「世界中の民主主義国家で政府が国民の期待に応えていないとの不満が広がっている」と強い危機感を表明したが、その通りである。まずは民主主義陣営が政治を立て直し、世界に手本を示す必要がある。

 中国やロシアは経済力やデジタル技術、エネルギー資源、そして軍事力を使って影響力を拡大してきた。新型コロナウイルス対策でも中国は人権軽視の徹底的な感染対策で封じ込めに成功したと宣伝している。

 議論や手続きに時間がかかる民主主義よりも政策の決定・遂行が早いとして米国でも強権的な手法を歓迎する声が増している。政敵やメディアを罵倒したトランプ前大統領が依然人気を集めているのはその証拠だ。

 先進国であっても政治の深まる党派対立、社会の中の根深い人種・民族対立、広がる一方の経済格差などを目にすれば、多くの国民が、民主主義政府とは議論ばかりしていて最重要の課題を解決できない、との結論に至ってしまうのだろう。

 民主化が進んでいると思われていた国々でも、ミャンマーの2月のクーデター、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンによる8月の政権奪取、ハンガリーなど欧州諸国での強権的な指導者の台頭などが目立つ。

 人権団体のフリーダム・ハウスは、15年連続で世界の自由度は後退した、と報告した。過去10年間で民主主義国家の過半数で何らかの後退があったとの国際的な研究所の報告もある。

 サミットの主催国で民主主義のとりでを自任する米国では、トランプ氏が大統領選の敗北を長く認めず、暴徒化した支持者らが選挙結果を覆そうと議会に乱入する前代未聞の事態が起きた。

 民主主義の立て直しには、自由、人権、法の支配などの基本的なルールの意義をあらためて確認し、政治も個人も不断に努力を傾ける必要がある。

 今回のサミットのような国際的な連携は重要だが、細心の注意も欠かせない。米国は報道の自由や民主的な改革者の支援など世界の民主主義再生のために最大4億2440万ドル(約480億円)を拠出すると宣言した。

 一方で、過去の民主化支援にありがちだった上から目線の押し付けは避けるべきだ。アフガニスタンやイラクでの最近の混乱が示すように、民主化はそれぞれの国民性に合わなければ、頓挫する。米国資金を受け取ることで、各国の個人や団体が米国の手先と敵視されることもある。

 中国やロシアは、サミット開催が世界を分断すると反発を強めた。招待された国と地域は約110に上るが、強権的な大統領がいるフィリピンやブラジルが招待され、同様のトルコやハンガリーは招待されなかった。線引きの根拠は明確でなく、米国による恣意(しい)的な分断と批判されても仕方ない。

 岸田文雄首相は「深刻な人権状況にしっかり声を上げていく」と発言した。民主主義が広がり、自由と法の支配を基盤とする国際秩序が確立されることは日本の国益だ。民主化を粘り強く支援していきたい。