18歳以下の子どもを対象とした10万円給付を巡る混乱が収まらない。政策の目的が不明確なまま拙速に給付を決めた政府と自民、公明の与党に原因があるのは明白だ。ずさんな政策を主導した岸田文雄首相と山口那津男公明党代表の政治責任は重い。今からでも撤回を含めて給付そのものを抜本的に見直すべきだ。

 給付は11月に決定した新型コロナウイルスの経済対策に目玉として盛り込まれた。18歳以下の子どもに現金5万円を先行して年内に配り、残りの5万円分は学用品などに使えるクーポンで来春をめどに配布する計画だ。

 年収960万円以上の世帯を除く所得制限は設けられたが、先の衆院選における公明の公約がほぼそのまま実現する形となった。国会審議中の2021年度補正予算案を中心に約1兆9500億円の国費を投じる。

 混乱のもとになっているのが、現金とクーポンに分けて政府が給付を求めている点だ。

 現金だけだと貯蓄に回る恐れがあるためだが、クーポンでの給付は印刷や利用対象店の選定など作業が煩雑で地方自治体の負担が大きい。

 一方、経済対策には元々「自治体の実情に応じて現金給付も可能」と明記してあり、大阪市や岡山市など全額現金給付の方針を示す自治体が相次ぐ事態となった。

 これに対して岸田首相は13日、衆院予算委員会で「年内からでも10万円の現金を一括で給付することも選択肢の一つとしてぜひ加えたい」と表明した。

 これまでの方針の転換と見えるが、この発言について松野博一官房長官は同日の記者会見で「クーポンによることが基本との考え方に変わりはない」とくぎを刺した。これでは実務を担う自治体は混乱するばかりだ。

 首相答弁について立憲民主党の小川淳也議員が「(年末に)対応できるところはほとんどない」と判断の遅れを問題視したのも当然だろう。

 自治体には「発送やさまざまな調整に時間がかかってしまう」(大森雅夫岡山市長)との懸念が強く、今の枠組みを維持するなら給付方法の選択は自治体に任せるのが理にかなう。

 その上で政府は全額現金の場合いつから、どのような形で給付が可能かなど、自治体が納得できる具体的で統一された指針を早急に示すべきだ。クーポンには967億円の事務経費が余計にかかる。この点でも自治体の言い分に説得力がある。

 混乱の原因は政策目的のあいまいさにあった点を改めて指摘したい。子育て支援なのか、消費喚起策なのか、地域経済の活性化策なのか―。詰めた議論を怠ったツケが混乱になって表れた格好だ。来夏の参院選を意識した有権者へのばらまきとの批判は免れない。

 過去の失敗を省みず過ちを繰り返した点も見過ごしてはならない。

 安倍政権時の昨年、政府はコロナ対策として国民1人10万円の現金を一律に給付。総額は約12兆8千億円に上ったが、家計簿アプリの分析によると7割は貯蓄に回ったとみられる。

 古くは1999年、公明が主導して65歳以上の低所得者らに2万円分の「地域振興券」を配布。この時も消費拡大の効果は限定的と指摘された。

 政府、与党は多額の税金を使いながら教訓を学ばなかったと断じざるを得ない。