販売している野菜セットの一例=出雲市斐川町神庭、SPIRA FARM(スピラファーム)
販売している野菜セットの一例=出雲市斐川町神庭、SPIRA FARM(スピラファーム)

 「体にも心にも優しいもの」を提供する店を紹介する「はるかほのやさしいお店巡り」。第10回は化学肥料不使用、無農薬の野菜を手掛けるSPIRA FARM(スピラファーム)=出雲市斐川町神庭=を紹介する。(Sデジ編集部・宍道香穂)

 明るく気さくな印象の福島克博さん(38)、沙織さん(38)夫妻が、70アールの畑でミニトマト、ニンジン、キャベツ、ケールなど年間約70種の野菜を栽培する。同じ野菜でもさまざまな色を用意し、例えばミニトマトは7~8種、ケールは5~6種を手掛けるようにしている。

 販売するのは当日か前日に収穫した新鮮な野菜ばかり。みずみずしい食感に加え、彩り豊かで見た目も楽しめるのが特徴。県内外の飲食店約20店に納入するほか、マルシェや朝市、委託販売、ネットショップで個人客に販売する。朝市などへの出店情報はインスタグラムで発信している。

 

 克博さんは千葉県から地元・出雲市にUターンし、2020年4月に就農した。父親が家庭菜園をしていて、農業を身近に感じていたという。大学は農学部で、卒業後、青年海外協力隊員や大学院生、会社員を経験。「自分の得意なことで社会貢献したい」と、農家になる決意をした。

 「長男が産まれた時でもあり、子どもに誇れる仕事をしたいとの思いもありました」と話す。千葉県の農家で2年間研修した後、沙織さんと共に出雲市で農業を始めた。

▷料理を彩るカラフルな野菜

 野菜の栽培では化学肥料や農薬を使わず、もみ殻や出し殻、米ぬかといった有機肥料を用いる。克博さんは「化学肥料や農薬は農業の発展に大きく貢献していて、必ずしも悪だとは思いません」と説明したうえで、「自分が野菜を育てる、それを子どもに食べさせると考えた時、化学肥料や農薬を使わずに栽培できるならそうしたいと思った」と、有機栽培に取り組んだ経緯を説明した。

 農業に携わる知人が取り入れていた「少量多品目栽培」を実践し、多くの品種を少しずつ栽培する。栽培する野菜の中に虫害に強い品種を加えることで、無農薬栽培を実現できるほか、多品目で収穫時期がずれるため、大雨など自然災害のリスクを分散できる。

夏の野菜の一例。カラフルなミニトマト、ナス、キュウリ、オクラなど、どれも色鮮やか(スピラファーム提供)

 栽培する野菜は、紫や黄色のニンジン、カーボロネロ(黒キャベツ)、パースニップ(ニンジンに似た白い根菜)といった、思わず二度見してしまうような珍しい姿をしている。購入先から話題を呼び、島根県内だけでなく、東京や大阪など県外からも定期的に注文が入る。

 彩り豊かな野菜は「料理をぱっと華やかにしてくれる」と、県内外の飲食店で重宝されている。飲食店でスピラファームの野菜を食べた客が興味を持ち、個人で購入することもあるという。沙織さんは「スーパーやデパートで買う選択肢もある中、自分たちの野菜を選んで買ってくれる人がいて幸せです」と話す。

▷旬のカリフラワー 食べてみた

 看板商品は旬の野菜約10品を一箱にまとめた「季節の野菜セット」(2,200円)。必要に応じて各野菜の増量もでき、ミニトマトやナス、落花生などが人気という。

 今はニンジン、カブ、キャベツ、カリフラワーなどが旬。紫ダイコンやジャガイモ、キクイモ、クリコガネ(サツマイモの一種)、3色のニンジン、カリフラワーが入ったセットを購入した。それぞれに、野菜の説明やお薦めの食べ方を記載したラベルが貼ってあるのがうれしい。

味の特徴やお薦めの調理方法のほか、保存方法も書いてあるのがうれしい

 沙織さんからは「素材の味を感じられるシンプルな味付けがおいしいです」と、お薦めの食べ方をアドバイスしてもらった。食べやすいサイズに切ってオリーブオイルで焼き、塩で味をつけたり、ゆでてマヨネーズにつけて食べたりと、素材の味を生かすシンプルな調理がお薦めとのこと。蒸し野菜にしてもおいしいという。

冬の野菜セットの一例

 家に帰り、さっそく調理。大ぶりでずっしりとしたカリフラワーをソテーする。みずみずしいカリフラワーを一口大にカット。フライパンを熱し、オリーブオイルを入れて、カットしたカリフラワーを加える。ジュ―っという音と鮮度の良い野菜の香りが食欲をそそる。火を止めて軽く塩を振り、器に盛りつけた。

 オリーブオイルと塩だけのシンプルな味付けが、カリフラワーのほんのりとした甘みや風味を引き立てる。カリフラワー特有のホクホクした食感も楽しめる。おいしくて、作るのも簡単。この香りに、おいしさなら、料理するのも楽しいし、毎日、喜んで野菜を食べられるような気がした。

 沙織さんは「ポタージュにしてもおいしいです」と教えてくれた。カリフラワーのみずみずしさや甘みがクリーミーなスープになると思うと、想像しただけで美味しそう。

▷「らせん」のように上昇したい

 福島さんは就農して、農業ならではのトラブルを経験した。今年7、8月に山陰両県を襲った豪雨で、スピラファームの畑やビニールハウスも被害を受けた。畝の間に水がたまったり、ビニールハウスが損壊したりした。通常は9月まで収穫できるミニトマトが8月までしか収穫できなかった。被害は軽微だったものの「これが自然災害の厳しさか」と実感したという。

 トラブルへの対処は大変だが、試行錯誤を続けながら野菜を作り、お客さんに届ける日々は充実している。克博さんは「これからもどんどん新しいことに挑戦し、感動体験を提供し続けたい」と目標を掲げる。

オーナーの福島克博さん

 農園名の「SPIRA」はギリシア語で「らせん」を意味する。種をまく、育てる、収穫する、と同じことをサイクルのように繰り返しているようでも、らせんのように少しずつ上昇していきたいとの願いを込めた。農業というサイクルの中で新しい風を吹き込み、向上を目指すスピラファームの今後が楽しみだ。