「M&A仲介協会」立ち上げの意義を語るM&Aキャピタルパートナーズの岡村英哲執行役員=東京都内
「M&A仲介協会」立ち上げの意義を語るM&Aキャピタルパートナーズの岡村英哲執行役員=東京都内

 経営者の高齢化と後継者不在による中小企業・小規模事業者の休廃業が山陰両県で深刻な課題となっている。事業承継の手だてとして売り手と買い手の双方が合意の下で進める「友好的M&A(合併・買収)」が注目される中、推進する体制を整えるため仲介大手5社が10月に「M&A仲介協会」を立ち上げた。来年1月の始動を前に、創立に携わったM&Aキャピタルパートナーズ(東京都)の岡村英哲執行役員に狙いを聞いた。(聞き手は東京支社・白築昂)

 ―帝国データバンクの2021年の調査で、後継者不在率は鳥取県が全国で最も高い74・9%、島根県が3番目の72・4%となっている。

 「中小企業庁も経営者が70歳以上の全国の中小企業・小規模事業者245万社のうち、60万社が黒字にもかかわらず25年までに廃業するとの見通しを示している。特に地方は高齢化や若者の流出で、なり手不足に歯止めがかかっていない」

 ―廃業の増加が地域経済に与える影響は大きく、対策が急務だ。国は事業承継を行った際に自社株式にかかる贈与税・相続税の納税を猶予、免除する制度を設けるなど支援を強化している。より多面的な対策も求められる。

 「後継者不在の場合、M&Aが最も現実的な選択肢になる。中小企業庁は今後10年間で60万社のM&A成立を目標に掲げている。年間6万社の計算だが、大手3社の20年実績は約760社にとどまる」

 -要因は何か。

 「M&A仲介業者は年々増え約2300社を数えるが、実務を担うアドバイザーが圧倒的に足りない。税務、財務、法務に関する専門知識に加え、売り手のオーナーの気持ちに寄り添える人間性を持つ人材の育成が最大の課題だ。仲介業者のほとんどが東京に集中し、必要な情報が地方にはまだ十分に届けられていない問題もある。『仲介手数料が高い』といったネガティブなイメージを抱く人が地方にはまだ多い。都市部に比べM&Aの実績が少ないため、身近な問題として認識しにくい状況がある」

 ―競合5社が手を取り協会を立ち上げた狙いは。

 「M&A仲介業は免許制でも許可制でもない。経験の少ない会社も含めて乱立する中、悪いイメージが独り歩きしてしまうとM&Aの普及につながらない。安全安心な事業承継の促進と業界の発展を実現させるためには、国のガイドラインに沿った事業展開と、それを担う人材の育成に一丸となって取り組まなければならない」

 ―具体的な取り組みは。

 「1月から本格的に会員を募る。アドバイザーの『M&Aエキスパート資格』の取得をはじめとする業界全体の人材教育・研修にまず注力していく。ただ、やみくもに業者やアドバイザーを増やすことが目的ではない。人材育成のインフラを整え、苦情・相談窓口の運営を進める。取引ルールを徹底して業界全体の業務品質を向上させ、適正で円滑な取引の推進につなげたい」

 

 おかむら・ひであき 大手コンサルティング会社を経て、2007年のM&Aキャピタルパートナーズ創業時に入社。住宅・不動産、アパレルなど幅広い業界のM&Aを手掛けた。20年、中小企業庁「中小M&Aガイドライン」の策定で検討会の委員を務めた。大阪府出身、41歳。