日本に駐留する米軍の経費を日本側が負担する、いわゆる「思いやり予算」について、日米両政府は2022年度からの5年間で総額1兆551億円とすることで合意した。単年度当たり約2110億円で、現行の2017億円を上回る。
思いやり予算は、日米地位協定上は米側が負担すべき費用の一部を日本側が肩代わりするもので、5年ごとの特別協定を結んで支出している。
中国の軍拡や北朝鮮の核・ミサイル開発など日本周辺の安全保障環境が緊張を増す中で、日米同盟の強化は重要な課題だ。しかし、防衛費が増え続ける中で義務ではない米軍の経費負担まで増やし続けていいのか。
米軍基地を巡っては最近でも、青森県で住宅地近くに戦闘機の燃料タンクが投棄される事故が起きた。沖縄県では米軍基地で、新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生。沖縄県と山口県の基地で働く日本人従業員のオミクロン株感染も判明している。基地が周辺住民の安全を脅かしているのだ。
相次ぐ事故などの背景には、在日米軍を日本の国内法の適用外とする規定などを盛り込んだ日米地位協定がある。地位協定の改定も含め、基地負担の在り方を抜本的に見直すべきだ。
思いやり予算は、米軍基地で働く従業員らの給与や基地の光熱水費などを日本側が負担するものだ。1978年に当時の金丸信防衛庁長官が「思いやりを持って対処する」と発言し、87年度以降は特別協定を結んで日本側が支出してきた。
米国のトランプ前政権は大幅な増額を要求していたが、バイデン政権に代わって一定の負担増に収まった形ではある。ただ、その中身は変化している。今回、光熱水費の負担を減らす代わりに、自衛隊と米軍の共同訓練に使う最新鋭システムの調達費を盛り込んだ。
これに併せて政府は「在日米軍駐留経費負担」というこれまでの呼び方を「同盟強靱(きょうじん)化予算」に変えるとしている。しかし、負担額の大半を占めるのが基地で働く従業員の給与である実態は変わらない。米軍が調達するシステムの費用を、この協定の枠で支払っていいのか。その費用が今後増えていくことも想定されるが、厳しい財政事情の中で許されるのか。国会で厳しく精査すべきだ。
青森県の事故では、米軍三沢基地所属のF16戦闘機が飛行中のトラブルのため燃料タンクを投棄して青森空港に緊急着陸した。タンクは住宅地から約20~30メートルのところで見つかっており、直撃していれば大惨事になっていた可能性がある。
防衛省は米軍にF16の飛行中止を要請したが、米軍は、すぐに飛行を再開している。
米軍基地のクラスター発生は、水際対策の抜け穴を露呈した。オミクロン株のために政府は外国人の入国を原則禁止している。だが、米軍関係者は地位協定などによって日本側の出入国管理と検疫を受けずに入国でき、基地から街に出ることもできる。米兵は米国出国時に検査を受けていなかった。これでは感染が市中に広がる恐れを食い止めることはできない。
基地の運用には周辺住民の理解が不可欠だ。同盟強化を名目に日本側が経費負担を増やしても、米軍がこうした行動を繰り返すのでは理解は得られない。日米両政府に厳しい対処を求めたい。