半世紀前まで酒造りを手掛けた酒販店「藤代酒店」(江津市都野津町、藤代美友代表)が、自社銘柄「都富士」の名を冠した日本酒を300本限定で製造した。酒造場だった頃の酒蔵や土蔵を残す店舗建物が国の登録有形文化財となったのを機に、県外で杜氏(とうじ)として活躍する息子の協力を得て復活させた。かつて盛んだった江津の酒造りの伝統に光を当てたいと願う。
江津には1940年ごろまで、20軒近い蔵元があったが戦後、洋酒との競合などで年々減り、今や1軒だけになった。藤代酒店も、明治期に「藤代酒造場」として創業し、都富士を県内や山口、広島両県で販売したが69年に製造から撤退し酒販店となった。
往年の酒造りに思いをはせるきっかけは2月に登録有形文化財になったこと。明治期に建てた店舗の母屋や酒蔵は屋根に赤い石州瓦をふき、外壁は左官職人が漆喰(しっくい)で鏝絵(こてえ)を描き、装飾してあり、古い商家の趣を伝えると評価された。
藤代代表(72)と妻の由利さん(73)は、神奈川県の老舗蔵元で働く次男・尚太さん(46)に限定酒の製造を依頼。優しい香りと舌触りが特徴の純米吟醸(720ミリリットル入り、1870円)、切れがある辛口の特別純米(同、1430円)の2種を仕上げた。
藤代代表は「かつて栄えた江津の酒造りの伝統を知ってもらうきっかけにしたい」とし、尚太さんは「幼い頃から聞いた都富士の名が付く酒を、再び造れてうれしい」と声を弾ませた。(福新大雄)