「歌聖」と称される万葉歌人・柿本人麻呂(人麿)終焉(しゅうえん)の地はどこか-。さまざまな説が提唱されながら特定に至っていないこの謎に、島根県大田市久手町の渡辺捷弘(かつひろ)さん(80)が挑み、書籍にまとめた。万葉集に収められた歌などを読み解きながら考察と推論を重ねた一冊で「私考を世に問うてみたい」と話す。 (錦織拓郎)
人麻呂終焉の地は辞世の歌「鴨山の 磐(いわ)根し枕(ま)ける吾(われ)をかも 知らにと妹(いも)が 待ちつつあらむ」にある地名「鴨山」を論拠に、益田市、浜田市、江津市、美郷町など諸説あり、石見地方各地に伝承が残るものの、実像は謎のままだ。
大田市出身の渡辺さんは2000年に京都府内の製薬会社を退職後、帰郷し、詩作や執筆活動に励む。自費出版した著書「鴨山私考-石見相聞歌と柿本人麿の謎」では、歌人・斎藤茂吉(1882~1953年)も提唱する「美郷町湯抱」説に着目した。
国立公園・三瓶山麓の浮布池で人麻呂が詠んだとされる恋歌の存在から、人麻呂が妻・依羅(よさみの)娘子(おとめ)と三瓶山やその西南麓にある湯抱も訪れていただろうと推測。
人麻呂の訃報を聞いた妻の歌から読み取れる情景、実際の土地の位置関係、人麻呂の足取りの推定などから、「鴨山」を「江の川の沿岸に求めざるをえない」と主張し、美郷町湯抱が最期の地だと導き出した。
A5判、102ページで1500円。主要書店やインターネット通販などで扱う。