韓国の大統領選挙で、保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユンソクヨル)前検事総長が当選した。尹氏は日韓首脳が相互訪問するシャトル外交の復活を提唱するなど、日韓関係の修復に取り組む考えを表明している。次期政権の発足は、過去最悪と言われる日韓関係を改善し、互いの重要性を再認識する好機となる。日韓双方が中長期的な視点に立ち、対話を進めるべきだ。
5年ぶりの政権交代となった背景には、不動産価格の高騰などに対する若者層を中心とした反発がある。「2030世代」と呼ばれる20代、30代は、朴(パク)槿(ク)恵(ネ)前大統領が罷免される原動力となった「ろうそく集会」で大きな力を発揮し、2017年に発足した革新系の文在寅(ムンジェイン)政権に対し、高い期待を抱いた。
しかし、文氏の側近や政府高官による入試不正や不動産投機などの問題が明らかになると、期待は批判に変化した。教育や就職で厳しい競争にさらされてきた「2030世代」にとって、不公正な行為は既得権層の横暴と映る。その不満が、尹氏の当選につながった。
韓国では、これまで保守と革新の支持がはっきりと分かれてきた。だが「2030世代」は理念ではなく、自らの生活に基盤を置いて誰が国のリーダーにふさわしいかを判断した。若者層で脱イデオロギー化が進んでいる表れであり、若者たちは大統領選の行方を左右する存在であることを示したと言える。
それだけに、次期政権には具体的な実行力が求められている。今回の大統領選では、雇用創出や住宅供給といった生活に直結するテーマが主要な争点となった。これに対し、外交安保政策については主要公約の中でも優先順位が低く、選挙戦での議論も低調だった。
有権者の関心に重点を置いたことは理解できるが、次期政権として日本や米国、中国、そして北朝鮮とどう向き合っていくか、明確なメッセージを発する必要がある。
文政権下では、朝鮮半島の非核化と平和体制構築を掲げ、北朝鮮との融和路線を取った。対北朝鮮政策を重要な軸とする一方で、日本との関係は元慰安婦や元徴用工の問題で冷え込んだままだ。
北朝鮮が核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射の再開をちらつかせる中で、韓国が日米との連携を強化する必要に迫られているのは論をまたない。5月の新政権発足に向けた陣容を整えていく中で、日米韓の協力を確認し、日韓関係の改善に道筋を付ける努力が不可欠となる。
日本政府は、関係改善について「ボールは韓国側にある」とし、対話に消極的な姿勢を取ってきた。しかし、新政権発足後も硬直した態度を続けるのは賢明ではない。早期に首脳会談を行うなど信頼醸成に取り組むことが重要だ。
今回、尹氏に敗れた革新系与党「共に民主党」の李在明(イジェミョン)前京畿道知事との得票差は1ポイント未満で、歴史的な大接戦となった。国内世論が二分した中で、尹氏が強調する「国民統合」の実現には困難が予想される。国会では少数与党となり、政権運営は容易ではなく、対日政策を変えようとしても世論や国会での抵抗に直面する可能性が高い。
そうした国内事情を踏まえながら、日本政府は次期政権と正面から向き合い、対話を重ねて問題解決を図ることが求められている。