米国がウクライナ侵攻の追加制裁としてロシア産原油の輸入を禁止した。資源産業に多くを依存するロシア経済の中枢に打撃を与える狙いだ。市場逼迫(ひっぱく)への警戒から米原油先物は約13年7カ月ぶりの高値を付けた。経済活動に対する下押し圧力は続くが、耐えることがウクライナへの連帯につながる。
米国の決断は国際社会への強いメッセージにはなったが、ロシアへの依存度が高い欧州勢が追随しなかったため、ロシア経済の弱体化への実効性が飛躍的に高まったとまでは言えない。各国の経済状況から一致団結した対応が取りにくかった。
米国の禁輸は同盟国の同調が前提ではないとして日本は追随に慎重だが、ロシア極東サハリンの石油・天然ガス開発事業では米欧企業がそろって撤退。液化天然ガス(LNG)の約9%をロシアに頼り同事業に出資している日本の対応に国際社会の関心は高まっている。
米国による原油禁輸措置は、国際決済ネットワークからの締め出し、各国有力企業の撤退などに次ぐ動きで、ロシアの世界経済からの遮断を一段と加速させた。ロシアを排除した世界経済の運営をどう安定させるか。国連憲章に違反する軍事侵攻には厳しいペナルティーを科す一方、それによる世界経済への悪影響をできるだけ軽減する方策を検討しなければならない。
貿易や金融のシステムの改革、希少金属、エネルギー、小麦といった基礎食料品の調達などでの国際協調をさらに深める必要がある。主要国、国連などの国際機関は眼前の危機に対応することはもちろんだが、新たな経済システムの構築に取り組むことも欠かせない。
ウクライナでは連日、ロシア軍による攻撃が拡大、多くの犠牲者が出ている。ポーランドなどの隣国に逃れる難民も200万人に達し、欧州では第2次世界大戦以来最大の危機となっている。
一刻も早く殺りくを止めなければならないが、直接的な軍事介入は大戦に発展しかねず非現実的だ。ウクライナが求める同国上空への飛行禁止設定を米欧が拒否しているのも、実効性を保つには強大な軍事力が必要で、ロシアとの間で直接的な戦闘が起きかねないためだ。
こうした中では経済を弱体化しロシアの国力をそぐしかない。軍事的な作戦と違い直接的な効果は望みにくいが、兵糧攻めはロシア国民の日常生活にじわじわと浸透し打撃を与える。財政が傷めば軍事費も影響を受ける。経済力が弱っていけば、停戦交渉などでもロシアが強気を貫くことが困難になる可能性もある。
一方、グローバル化が進んだ世界経済から大国であるロシアの排除を進めれば、エネルギーや製品の原材料の価格が上昇、ロシア市場からの撤退は売り上げの一部を失うことになり、企業活動は大きな影響を受ける。
国際エネルギー機関(IEA)は石油備蓄の協調放出を決定したが、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどで構成する「OPECプラス」は追加増産を見送り、原油相場は高止まりが続く。
既にガソリン価格などの上昇は庶民の懐を直撃、今後もさまざまな商品の値上がりが見込まれる。わたしたちの日常生活も制裁強化と決して無縁ではない。こうした意識を持ち続け、ウクライナ情勢を注視していきたい。