ロシアのウクライナ侵攻が続く中、両国と密接な関係を持つ中国の対応が注目される。侵攻開始は、2月初めに中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領が北京で会談し、米欧など西側に対して中ロ結束を誇示した約3週間後だった。

 習氏は会談の時点で、侵攻を予期していなかったようだ。バイデン米大統領が侵攻が近いと警告を発し始めた後も中国外務省の報道官は懐疑的な発言をし、数千人のウクライナ在住中国人に対する避難指示も遅れた。

 ロシアは首脳会談で勢いづいたかのように侵攻に踏み切った。中国はこの責任を重く受け止める必要がある。ロシアに強い影響力を持つ中国は国際社会と協調しながらロシアとウクライナの仲介役として、和平の実現に全力を尽くすべきだ。

 中国の王毅国務委員兼外相は記者会見で「必要な時期に国際社会と共に必要な仲裁を行いたい」と強調。ブリンケン米国務長官との電話会談では、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大によるロシアの懸念を代弁し、米国、NATO、欧州連合(EU)に対し、ロシアとの対話を求めた。

 中国は「制裁は事態をエスカレートさせる」として国連安全保障理事会と国連総会の非難決議を棄権し、対ロ関係を守った。今、ウクライナでは市民の命が奪われ、多くの人々が国外へ避難している。中国は人道を重視し、「戦略的パートナー」ロシアに即時停戦と撤退、ウクライナの原状回復を求めるべきだ。また中ロルートの貿易で、国際社会の制裁に抜け道をつくってはならない。

 侵攻は北京冬季五輪閉幕の4日後だった。今月4日に開幕した北京冬季パラリンピックにはロシアとベラルーシの参加が認められず、ロシアの暴走は「平和の祭典」に冷や水を浴びせた。習氏は今年後半の共産党大会で異例の総書記3選を狙う。安定した内外環境が必要で、国際紛争は決して望ましくないだろう。

 経済面のマイナスも大きい。中国とウクライナの経済、貿易、軍事面の結び付きは強かった。同国の首都キエフは中国が推進する巨大経済圏構想「一帯一路」のルートを走る国際鉄道の欧州側の拠点である。台湾をけん制する中国初の空母、遼寧はウクライナから購入した建造中の空母を基に造り上げた。

 中国の李克強首相は5日始まった全国人民代表大会(全人代=国会)会議で、今年の経済成長目標を「5・5%前後」とし、国防費の伸び率も上げた。しかしウクライナ侵攻に伴う世界経済の冷え込みが、貿易大国である中国の成長に深刻な下げ圧力をもたらすのは必至だ。

 安全保障面では、ロシアと並ぶ「専制国家」として中国への国際社会の警戒も強まった。プーチン氏と習氏が長期に独裁体制を敷く共通点もある。日本の防衛関係者や自民党保守派からは「台湾有事」に備え防衛力増強を求める声が相次ぐ。中国はウクライナ和平に貢献して信頼の回復に努める必要があろう。

 習氏が電話会談でプーチン氏に対話解決を呼び掛けた後、ロシアとウクライナの停戦交渉が始まった。李首相は全人代報告で、外交方針について「平和的発展の道を歩み、人類運命共同体の構築を進める」と改めて言明した。中国は言行一致で真剣にロシアの蛮行をいさめるべきだ。