プロ野球ロッテの佐々木朗希投手が10日のオリックス戦で1人の走者も許さない完全試合を達成した。28年ぶり史上16人目の快挙は、新記録となる13者連続奪三振、最多に並ぶ1試合19奪三振と記録ずくめだ。東日本大震災の被災地出身の20歳が復興途上の故郷を元気づけ、コロナ禍が続く社会に明るい話題を届けた。

 野球の華は打者なら豪快な本塁打、投手なら快刀乱麻の奪三振にある。佐々木投手の快投には、野球の原点の魅力がいっぱいに詰まっていた。

 時速160キロを超える速球で打者を追い込み、落差の大きいフォークボールで空振りさせる。三振数が積み上がるたびにスタンドのどよめきが大きくなっていった。快晴の日曜日。多くの子どもファンも野球の醍醐味(だいごみ)を感じ取っただろう。

 これまで最多だった9者連続奪三振を大きく上回る13者連続である。実に64年ぶりの歴史的な記録更新で、米大リーグ記録の10者連続をもしのいだ。20歳5カ月での完全試合も最年少記録だ。

 左足を大きく振り上げ190センチの長身から投げ下ろす豪快さ。戦前の伝説的名投手、沢村栄治もこのようなフォームだったのでは、と夢想する。鋭く糸を引く速球は最速164キロを計測。米大リーグで活躍する大谷翔平選手が日本ハム在籍時に記録した日本投手最速の165キロに迫った。

 佐々木投手は岩手・大船渡高校時代に160キロ超の速球を投げた逸材だった。注目すべきは高校時代、プロ入り後の育成法だ。指導者は素質ある選手を故障させずに育てることに心血を注いだ。

 高校3年時の全国選手権岩手大会では前日の準決勝までに4試合で投げていたため、同校監督は甲子園出場を懸けた決勝にエースの登板を回避して敗れた。選手の夢をも奪う起用法に賛否両論がわき起こった。

 ロッテの監督、コーチ陣も同様だった。入団1年目は基礎体力アップを優先し、公式戦登板はなし。2年目の昨季1軍デビューしたが登板試合数は11に抑え、1試合の投球数を制限し、登板間隔も大きく空けて大事に経験を積ませた。

 3年目の今季、初めて開幕からの先発ローテーションに入り、中6日を空けた登板3試合目で偉業を達成した。今となれば、4年前の岩手大会決勝で「ここで投げさせたら壊れる可能性が高かった」と説明した大船渡高監督のけい眼をあらためて評価したい。

 高校生投手は投球過多による故障で多くの才能が野球を断念している。ようやく投手保護の観点から投球数が制限され、甲子園大会では連投防止のため日程に休養日を設けられた。それでも今春の選抜大会では雨天順延があって休養日が消滅し、決勝では連投の近江高のエースが途中降板して大敗した。甲子園大会は主催者の都合優先が依然、残る。将来性のある選手を守るために「選手ファースト」にさらに取り組むべきだ。

 岩手県陸前高田市出身の佐々木投手は大震災で父、祖父母を亡くした。震災11年を迎えた今年3月11日には「今でも悲しみは消えない。その中でも野球に打ち込めているのはたくさんの支えがあったから。感謝しかない」と話していた。被災地に活気を与える活躍だが、まだ発展途上で、伸びしろは大きい。第2幕以降にも期待したい。