政府は児童福祉法の改正案を今国会に提出している。幼い命を脅かす虐待事件は後を絶たず、これまで児童虐待防止法とともに改正を重ねてきた。今回は、児童相談所が子どもの安全を確保するため親から引き離して一時保護したり、児童養護施設や里親家庭に委託したりするときに子ども本人の意見を聴取し、勘案するよう義務付ける。

 子どもを独立した人格を持つ権利主体と位置付けて「意見表明権の保障」などをうたう「子どもの権利条約」が1989年に国連で採択され、日本は94年に批准。意見聴取の環境づくりを求める声が高まったが、制度は整わず、国連子どもの権利委員会に取り組みの遅れを指摘されている。

 民間では各地のNPO法人などが今年3月に全国組織を発足させ、子どもから被害実態や進路希望などを聞き取り、児相をはじめ関係機関に伝える「アドボケイト」と呼ばれる意見表明支援員の養成に本格的に乗り出した。兵庫県弁護士会は昨年10月から県と提携し、一時保護された子どもに支援員として弁護士を派遣する制度を始めた。

 改正案には一時保護の要否を家庭裁判所が判断する司法審査の導入も盛り込まれており、そこでも子どもの意見聴取は欠かせないだろう。民間とも連携して、国は虐待対応を巡り子どもの声にしっかりと耳を傾け、尊重する仕組みの導入を急ぐことが求められよう。

 警察庁によると、2021年に全国の警察が摘発した虐待事件で被害を受けた18歳未満の子どもは2219人に上り、過去最多。無理心中なども含め、54人が亡くなっている。身体的虐待が81・3%と最も多く、性的虐待も15・3%で、年齢別で見ると、12~14歳の被害が目立ったという。

 一方、児相は一時保護などを巡り親に激しく反対され、対応に苦慮することも多い。しかしながら、その後の家庭支援も考えると、親との信頼関係づくりを重視せざるを得ない。そうした中で子どもの処遇が大人の利害や力関係により決まってしまい、重大な結果を招いた例は少なくない。

 千葉県野田市で19年1月、小4女児が虐待を受け亡くなった事件で、児相は女児が「家に帰りたくない」と話したり、父親による性的虐待を打ち明けたりしたのに、それを軽視して一時保護を解除し、救えなかった。

 厚生労働省の検討会は17年8月に公表した「新しい社会的養育ビジョン」で、アドボケイト制度の必要性を指摘。野田市の事件を挟んで19年2月には、自民党の特命委員会が「子どもの意見をくみ取るアドボケイト制度の構築」を提言した。

 今年に入ってからも虐待事件は相次ぎ、一時保護の解除後に子どもが犠牲になるケースが目立つ。3月には長野県社会福祉審議会が、県の専門里親だった男が4人の児童に性的、身体的虐待を繰り返していたとされる問題の報告書をまとめ「虐待を周囲が把握していたのに、関係機関で情報が共有されなかった」などと述べ、アドボケイト制度の導入を提案した。

 新型コロナウイルスの感染拡大がなかなか収まらず、虐待が潜在化する懸念も高まっている。児相と親の板挟みになり、子どもは物を言いにくい。その本音をいかに引き出し、寄り添っていくかが問われており、制度設計と担い手の確保を早急に進める必要がある。