法律で規定していた使い道を広げるお手盛りの措置を「是正」「改正」と呼ぶわけにはいかない。このままでは「永田町の常識は、世間の非常識」をより印象付けることを、議員一人一人が自覚してもらいたい。
共産党を除く与野党5党は、衆参両院議員に毎月100万円支給している「文書通信交通滞在費」について、名称を「調査研究広報滞在費」に変え、日割り支給とすることで合意。その見直し案が衆院を通過し、きょう成立する。野党が要求した使途の公開や未使用分の国庫返納などは結論が出ず、先送りされた。
24日に参院石川選挙区補選を控え、当選者が文通費の満額を受け取る事態を避けたかったというのが自民党の理屈で、一見するともっともらしい。しかし、日割り支給は、衆院選に初当選した新人議員の「告発」をきっかけに、昨年の臨時国会で各党とも合意していた。使途公開などで折り合わず、立法作業が遅れたのであって、この期に及んで日割り部分だけを先行させるのは、政治のサボタージュと批判されても当然だ。
さらに、問題なのは使途の拡大である。「公の書類を発送し、公の性質を有する通信をなす等のため」と定めていた文通費を、「国政に関する調査研究、広報、国民との交流、滞在等の議員活動を行うため」と改めるのは、要は何に使っても構わないとお墨付きを与えたに等しい。
これまでも文通費を巡っては、人件費や事務所経費、飲食費など、事実上の「第2の財布」となっているのが実態と指摘されてきた。今回の名称変更による使途拡大は、従来の目的外の使用を〝白状〟したようなもので、その後ろめたさから解放されたかったのかもしれない。「国民との交流」も意味不明だ。
国会議員に対しては現在、一般の給与に当たる「歳費」、ボーナスに相当する年2回の「期末手当」を支給。コロナ禍を踏まえて一部カットされているものの、年間2千万円近くに上る。これとは別に1人当たり月額65万円の立法事務費を、会派に配分している。
加えて、政党に対しては、政治活動を支えるため、受け取りを拒否している共産党以外に、計約315億円の「政党交付金」を助成している。3人の秘書給与も公費負担、議員会館にそれぞれの事務所があり、都心には民間の相場に比べて格安の家賃の議員宿舎も用意されている。
一般社会では、業務にかかわる交通費や通信費などの経費は、領収書添付で実費精算するのが当たり前だ。地方議員の「政務活動費」も、領収書の公開が主流となり、インターネットの閲覧も進む。なぜ、国会議員がそれを免除されるのか、理解に苦しむばかりだ。
市民の暮らしに目を向ければ、コロナ禍による経済的な困窮、ウクライナ危機や円安で燃料価格の高騰、生活用品の値上げに苦しんでいる人は少なくない。そんな中で、国会議員だけが非課税で使い勝手の良い「つかみ金」を手にすることを、恥じる気持ちはないのだろうか。
使途の拡大を図るならば、最も肝心な透明性の確保が不可欠と言える。何に使えるのか、基準を明確にし、領収書を添付した使途の公開、未使用分の返還という3点を今国会中に実現することが必要かつ絶対条件だ。