短歌 寺井淳選

とろとろと浅き眠りに見し夢の声なきままのちちははの顔     出 雲 神門  晃

 【評】夢にみた父母の顔を詠み、「声なきまま」にも関わらず極めて聴覚的です。下句の「まま・ちち・はは」の反復が耳に残るからですね。寂しいおまじないのようにも 聞こえます。

夕月に誰かスイッチ入れたのと不思議いっぱい幼子の聞く     松 江 森脇よし子

 【評】右歌の「ちちはは」と、百歳以上の年齢差であろう幼子の、これは不思議そうな声。こちらは声が響いて、なお夕月が視覚的に強い印象を与...