韓国の文(ムン)在寅(ジェイン)政権が厳しい局面を迎えている。韓国の世論調査会社が16日に発表した大統領の支持率は過去最低の30%で、不支持率は62%に上った。来年3月の大統領選を占う上で重要とされたソウル、釜山両市長選は、いずれも保守系最大野党・国民の力の候補が与党・共に民主党系候補を大差で破った。

 両市とも与党系現職のセクハラ問題が選挙の発端だったが、新型コロナウイルスによる経済の低迷や若者の就職難が影響したと韓国メディアは指摘する。さらに新都市計画の情報を事前に入手した韓国土地住宅公社職員や公務員が、不正に土地を購入して利益を得た疑惑が報じられ、民心が政権から離れた結果が両選挙に表れた。

 2018年の平昌(ピョンチャン)冬季五輪や南北首脳会談で歩み寄った北朝鮮との関係も悪化している。3月30日には金正恩(キムジョンウン)総書記の実妹の与正(ヨジョン)氏が談話を発表し、弾道ミサイル発射実験を批判した文氏を「米国産のオウム」とののしった。折しも、脱北者団体が軍事境界線付近で気球に乗せて飛ばす北朝鮮への反体制ビラ散布を禁止する法律の施行と前後した。禁止法は表現の自由を侵すものだと国内だけでなく、米国議会からも注文が付く。北朝鮮に譲歩するのは、7月に迫る東京五輪で平昌五輪のように南北合同での入場や高位会談を実現したい思惑が見える。だが、北朝鮮は早々に東京五輪への選手団派遣見送りを発表。南北融和も袋小路に入ってしまった。

 韓国の大統領は軍事政権の時代に独裁を許した教訓から1期5年と決まっている。政権が下野すると、前大統領の不正が発覚して刑事責任を問われる事態が何代か続いている。政権末期に入った文氏は、次期政権も同じ革新系に引き継ごうと、支持率の回復に躍起になっている。

 北朝鮮に望みがなくなり、世論を引き付けるのが対日政策。今月13日、日本政府が東京電力福島第1原発の処理水を海洋放出する方針を正式決定した。翌日、文氏は放出の差し止めを国際海洋法裁判所に提訴する検討を政府内の部局に指示した。併せて相星孝一駐韓大使の信任状奉呈式で「地理的に最も近く、海を共有する韓国は非常に強く憂慮している」と、日本政府に韓国側の考えを伝達するよう求めた。日本からの輸入水産物の放射能検査と原産地取り締まりの強化も決定。既に小売店では水産物の不買運動も始まっているという。

 処理水は韓国の原発でも放出しており、福島県と韓国の距離を考えても直接、水質に影響を与えるとは考えにくい。異例の対応は、韓国内で反日感情をあおり、民心を引き寄せるのが本心だと勘ぐらざるを得ない。

 対日強行策で記憶に新しいのが、12年8月、当時の李明博(イミョンバク)大統領が行った竹島(島根県隠岐の島町、韓国名・独島(トクト))への上陸だ。不正資金事件によって実兄や側近が逮捕されてレームダック(死に体)状態にあった李氏は、反日政策に肩入れした。竹島上陸は韓国内で大きな話題と共感を得たが、日韓関係が極度に悪化し、禍根は現在も引きずっている。

 文氏は大統領就任前の16年7月に、竹島で1泊した過去がある。政権最後の夏、竹島を「切り札」にするつもりではないだろうか。自身の支持を得るために日本へ問題をふっかけ、竹島問題を利用すべきではない。抱える自国の問題へ率直に向き合い、任期を終えるのが筋だ。