アーティスト鍼灸師を志した経緯を話す野田峻也さん=島根県邑南町矢上、矢上高校
アーティスト鍼灸師を志した経緯を話す野田峻也さん=島根県邑南町矢上、矢上高校

 音楽アーティスト専門の鍼灸(しんきゅう)師で人気グループ「Official髭男dism」「DA PUMP」などを担当する、島根県邑南町出身の野田峻也さん(32)=大阪市在住=がこのほど、母校の矢上高校(邑南町矢上)で講演した。野田さんは「メガパン」の名前で活動し、SNSなどで情報を発信、若者の支持を集めている。大好きな音楽に関わるため今の道を選んだとし、高校生に「やりたいこと」を明確にして進路を選んでほしいと助言した。講演の要旨を紹介する。
(邑南通信部・糸賀淳也)

音楽が好き
 高校、専門学校を卒業してからメガパンの名前で10年くらいアーティストの鍼灸師をしている。きっかけは音楽が好きだったからだ。

 石見中学校ではパンクバンドのハイスタンダードが好きで楽器を始めた。でも下手くそで人前ではとても演奏できない。それなら照明さんとか裏方のスタッフはどうかと思った。

 矢上高校では好きだったバンド、マキシマムザホルモンのマネジャーになりたいと思った。東京の事務所に連絡したが、高校生だし、東京都在住ではないからだめだった。
 

スライドで自己紹介する野田峻也さん=島根県邑南町矢上、矢上高校

 私が高校の頃は、野球のトレーナーが出始めていた。トレーナーさんはどういう資格を持っているのか調べたら鍼灸師だった。鍼灸師になればイチローさんのトレーナーもできる。それなら鍼灸師の資格を持てば好きなアーティストさんとツアーにも行けるはず。当時のガラケーを使って調べてみたがやっている人はいなかったし、それなら自分でやろうと思いついた。

 進路の先生に「マキシマムザホルモンのトレーナーになりたい」と書けば怒られると思ったので、「阪神タイガースのスポーツトレーナーになりたいので関西に行きます」と書いた。高校3年の頃にはどうやってその道にいけるかを考え、専門学校に進んだ。

年300のライブで治療
 人からはよく「鍼灸師になりたかったんですか」と聞かれるが、鍼灸師になりたかったわけではない。アーティストに365日ついて行ってライブを見たい。毎日、メンバーと一緒にご飯食べたりとかそういう生活をしたかった。

 アーティストと関わりたいと思って、25歳くらいには実現していた。23歳の時に個人事業主となり、28歳では株式会社を設立した。従業員も雇って今は仕事ができている。年間300本くらいはライブで治療している。

 鍼灸師としては「喉がかれて声が出なくなった。10分後にはライブでみんなの前で2時間歌わないといけない」といったアーティストの喉をケアしたり、腕が固まってギターが弾けないというギタリストの治療をしたりしている。また、海外ツアーについて行って、ベストなパフォーマンスできるように健康管理もしている。

治療したアーティストを紹介する野田峻也さん=島根県邑南町矢上、矢上高校


 アーティスト鍼灸師になる前にはBリーグの大阪エヴェッサのジュニアチームのスポーツトレーナーをしたこともある。スポーツトレーナーとアーティストトレーナーの違いは、スポーツ選手は体の調子を整えても負ける時は負けるが、アーティストさんは調子を整えれば、いい歌が歌えて、いい演奏ができた。

 お客さんがライブで盛り上がっているのを見るのがうれしいし、アーティストから「針で治療してもらっていつもよりいい声が出せたわ」と言われるのがやりがいだ。新型コロナウイルスでライブが減った時期もあったが、だいぶ戻ってきた。5月は7日くらいしか(大阪の)家には帰っていないくらいだ。

感謝の気持ち大切に
 最近はDA PUMPの25周年ライブに呼んでもらったりした。自分が学生の時に聴いていたアーティストと今、仕事をしているのは不思議な気分だ。中学時代に大好きで、自分がドラムをたたくきっかけとなったハイスタからも頼まれて治療をしたりしているのは自分でもすごいことだと思う。

 仕事は「させてもらっている」という考えを大事にしている。上から目線で「やってあげている」ではなくて憧れのアーティストさんからの依頼にも「一緒に仕事させてもらっている」という気持ちを持ってやっている。常に感謝の気持ちを持ってやることが大切。

仕事をする上で大切にしていることを紹介する野田峻也さん=島根県邑南町矢上、矢上高校


 みんなも矢上高校に通わせてもらっている、寮に入らせてもらっていると、いろんな機会をもらっているのだと考えることが大事。コロナで部活ができなくなったり、友人と話せなくなったりしたと思う。全てのことが当たり前ではないと思ってほしい。

 仕事などを考える時には自分の中でやりたいことや、やりたくないことをはっきりさせるようにしている。

やりたいこと考えて
 これから進路を決めると思うが、とりあえず大学に行くというのもいいが、自分が何が好きか、何をやりたいかを考えてほしい。僕は365日、音楽に関わるために鍼灸の学校で学んだ。好きなことをやるために頑張ろうと思ってやることが必要。

 自分がやりたいことをやるのと、ご飯を食べていくためにやるのがあって、それがイコールになるのは難しい。自分も鍼灸の学校で技能を身につけるために頑張って学んだし、アーティストさんも音楽が好きで食べて行くんだと活動していて、下積み時代にはアルバイトも経験して今がある。
 

アーティスト鍼灸師を志した経緯を話す野田峻也さん=島根県邑南町矢上、矢上高校

 自分のやりたいことをやってご飯を食べている人は周囲にもいいエネルギーを与えている。やりたいことをやって生きている人がいい。

 進路学習では好きなこと、やりたいことをひたすら書いて考えてほしい。やりたいことを決めると、それを実現するためにどうしたらいいかを考えていくことができる。

 できるかできないか、やりたいかやりたくないか、今やるか将来やるか、これは常に頭に置いて行動してほしい。

 高校の宿題とかやりたくないという人もいると思う。高校の勉強は何のためにやるのか。働き出して国語力がなければメールを打つのにも影響する。今は嫌なことでも勉強しておくといい。高校を卒業してからは好きなことをやるための勉強をするようになる。嫌なことでも勉強するのは高校まで。高校までの勉強は基礎練習だと思って頑張ってほしい。

 みんなにはやりたいことの専門家を目指してほしい。好きなこと、やりたいことをとにかく掘り下げていってほしい。

 社会に出てからは自分と違う分野の人と付き合って話を聞くのも大事だ。僕は普段、いろいろな大人に出会って、いろんなことを吸収しようとしている。いろんな人と会い、自分とは違うことで頑張っている人をリスペクトしてほしい。

 矢上高校出身に劣等感を持つのではなく誇りを持ってほしい。田舎で不便だと思うのではなく、都会にない自然が残っているここで暮らした経験を今しかできないと思ってもらいたい。