東京電力福島第1原発事故を巡り、東電の株主が旧経営陣5人に「津波対策を怠り、被災者への賠償や廃炉で会社に巨額の損害を与えた」と、22兆円を東電に賠償するよう求めた株主代表訴訟の判決で、東京地裁は4人に計13兆円余りの支払いを命じた。「安全意識や責任感が根本的に欠如していた」と旧経営陣の怠慢を厳しく指弾した。

 原子力損害賠償法は原発事故を起こした電力会社が過失の有無にかかわらず賠償責任を負う「無過失責任」を定め、法人としての東電に賠償を命じる判決が相次いでいるが、旧経営陣個人の賠償責任を認める司法判断はこれが初めてとなる。民事裁判の賠償額としては過去最高とみられる。

 地裁判決は原発事故について「周辺住民の生命や身体に重大な危害を及ぼし、国土の広範な地域や国民全体にも甚大な被害を及ぼす。ひいては、わが国そのものの崩壊にもつながりかねない」と指摘。「原子力事業者には過酷事故を万が一にも防止すべき社会的、公益的義務がある」とした上で、旧経営陣の経営責任をはっきりとさせた。

 政府は「骨太方針」で原子力を最大限活用すると表明している。そんな中、判決は東電のみならず、電力業界全体に警告を発した形だ。安全対策の先送りでコストを抑えても、やがて大きな損失となって跳ね返ってくることを経営者らは改めて肝に銘じる必要がある。

 賠償を命じられたのは勝俣恒久元会長、清水正孝元社長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長の4人。訴訟では、政府の地震調査研究推進本部が2002年に公表した地震予測「長期評価」の信頼性が大きな争点となった。福島沖など太平洋岸で巨大津波を引き起こす地震が発生する可能性があるとの内容だった。

 これを基に東電子会社は08年3月、福島第1原発に最大15・7メートルの津波が到達すると試算。その後、原子力部門のナンバー2だった武藤氏が長期評価の信頼性は不明として、土木学会に検討を委託することを決めた。

 地裁判決はまず、長期評価について「トップレベルの地震や津波の研究者が多数集められるなど、一定のオーソライズがされた相応の科学的信頼性を有する」と判断。その上で武藤氏の決定に言及し「長期評価などを踏まえた津波への安全対策を何ら行わず、先送りしたと評価すべきだ。著しく不合理で、許されない」と指摘している。

 勝俣氏らは対策を講じないことに不合理な点がないか確認すべき義務を怠ったと認定。原発の主要建屋や重要機器室に浸水対策工事をしていれば津波による重大事故を避けられた可能性が十分にあったと結論付けた。

 長期評価について、業務上過失致死傷罪で強制起訴された勝俣氏、武黒氏、武藤氏を無罪とした東京地裁判決は「合理的な疑いが残る」とした。避難者らに対する国の賠償責任を否定した最高裁判決は明確な判断を示していないなど、今回の判決も含め、刑事と民事とで判断が分かれている。

 原発事業は国の政策の下で、電力会社の責任で運営する「国策民営」の形を取り、進められてきた。だが、この方式は責任の所在にあいまいさがつきまとう。万が一にも原発事故を起こしてはならないが、国策として推進する以上、国が避難者への賠償などでより前面に立つのが筋だろう。