修復したかんこ舟に乗り込み、柏原実さん(右端)から櫂の使い方を教わる隠岐島前高校3年生=島根県海士町宇受賀、宇受賀漁港内
修復したかんこ舟に乗り込み、柏原実さん(右端)から櫂の使い方を教わる隠岐島前高校3年生=島根県海士町宇受賀、宇受賀漁港内

 隠岐諸島でかつて使われた木造の「かんこ舟」の操船体験が20日、海士町宇受賀の宇受賀漁港の港湾内であった。舟は、昨年9月にIターンした米国出身の冒険家ハワード・ライスさん(68)と、隠岐島前高校の生徒たちが修復。高校生と操船経験を持つ地元漁師が乗り込み、一度途絶えた「海の文化」を伝え、残そうと心を一つにした。

 かんこ舟は櫓(ろ)と櫂(かい)で操船する、帆を持たない小型の和船。平底で、底面に独特な形状の板を組み合わせた波よけがある。半世紀前まで、町内には山林から丸太を切り出して造船する船大工がおり、イカ釣りや、海面から箱めがねを使って行われるアワビやサザエの「かなぎ漁」で使われた。

 エンジンがある繊維強化プラスチック製の漁船が主流となり、使われなくなったかんこ舟は長く船小屋で眠っていたが、町民有志でつくる「海の士(ひと)を育む会」(10人)が「海の文化」を継承しようと、木造カヌー職人でもあるライスさんに修復を依頼。6月上旬から漁港内で、隠岐島前高校の生徒たちとも連携して作業してきた。

 町内で保管されていたかんこ舟は約6メートル、幅約1・5メートル。欠損部に樹脂を詰めるなどの作業を終え、色直しされた紅白の舟にはこの日、3年生5人が乗船。近くの漁師柏原実さん(84)も乗り込み、櫓の使い方を伝えた。

 かんこ舟をこぐのは柏原さんも数十年ぶりだったが「体で覚えた」という操船の感覚はすぐによみがえり、港湾内を自在に航行。一方、生徒たちは横揺れを起こすなど苦戦し、水野結子さん(17)は「左右に動かすには力が必要で、方向転換が難しかった」と話した。

 ライスさんは「かんこ舟や櫓は世界でも珍しい形をしている。本に載るだけのものにしてはならない」とあらためて継承の必要性を語った。伝統を受け継ぐ生徒たちは今後、地区内での聞き取りや文献調査にも取り組む。 (鎌田剛)