ウクライナ危機の現状 ~プーチン大統領の思惑
在任中に和平交渉推進を
山陰中央新報社の石見政経懇話会、石西政経懇話会の定例会が9、10日、浜田、益田各市であった。大和大教授でジャーナリストの佐々木正明氏(50)が「ウクライナ危機の現状~プーチン大統領の思惑」と題し、ロシアでの取材経験を踏まえてウクライナ危機の背景や両国の現状を語った。要旨を紹介する。
今回のウクライナ危機は1991年のウクライナ独立以降30年間にわたる内政問題に一因がある。立地が良く鉄鋼や農業の分野で潜在能力を秘めた国だが、政治腐敗や行政、経済の非効率などのために1人当たり国内総生産(GDP)は4千~5千ドルにとどまり、アフリカを下回る。自国の力だけでは発展できず、親ロシア派の国民と、欧州統合を望む国民とが混在したことで戦争の火種を生んだと言える。
開戦以降、ウクライナは1日に500人の兵士が亡くなるなど被害が広がり、インフラ被害額も14兆円に上る。ロシアは8月上旬時点で死者数2万人超、負傷者数5万人超と推計される。欧州諸国などによる経済制裁が大きな打撃となっているが、原油の禁輸措置については逆に石油単価の上昇を招き、侵攻前よりもエネルギー収入は増加している。ロシアが強気な発言をし続けられるのはこのためだ。
ロシア国内ではプーチン大統領の支持率が上昇した。国民の意識の中で戦争の相手は米国であり、ソ連時代から続く反米意識や反西側意識が刺激されている。言論弾圧や情報統制の効果もあるだろう。
プーチン氏の健康不安説が飛び交っているが、プーチン氏のやり方を手ぬるいとする声もある中で、核や生物兵器の使用も辞さない最強行派を抑えているとの見方もできる。2年後には次の大統領選挙も迫る。プーチン氏の在任中に和平交渉を進めるべきだ。
(中村成美)