東京地検特捜部は受託収賄容疑で東京五輪・パラリンピック組織委員会の元理事高橋治之容疑者を、贈賄容疑で大会スポンサーの紳士服大手AOKIホールディングスの前会長青木拡憲容疑者らを逮捕した。高橋容疑者はAOKI側からスポンサー契約などで便宜を受けたいと請託を受け、計5100万円を受け取った疑いが持たれている。

 高い公共性が求められる組織委の理事は「みなし公務員」で、職務に関連して具体的な依頼を受け、賄賂を受領した場合には受託収賄罪が成立する。法定刑は、依頼を要件としない単純収賄罪よりも2年重い7年以下の懲役。高橋容疑者は理事在任中、スポンサー企業の選定などに権限を持っていた。

 高橋容疑者の会社がコンサルタント契約を結んだAOKI側から計約4500万円を受領していたことが分かり特捜部は7月に高橋容疑者の自宅を家宅捜索するなど捜査を進めていた。高橋容疑者は広告大手・電通の元専務。組織委には多くの電通社員が出向しており根回しや後押しなどに動いたとみられる。

 電通には大企業との太いパイプや蓄積されたノウハウがあり、組織委は企業とのスポンサー契約や大会運営、テレビ放送権交渉などで大きく依存していたとされる。高橋容疑者らの癒着を徹底解明することによって、大会商業化のゆがみを正すことが求められよう。

 スポーツビジネスの第一人者とされる高橋容疑者が組織委の理事に名を連ねたのは、2014年6月。3年余りが過ぎた17年9月、高橋容疑者が代表のコンサルタント会社「コモンズ」はAOKI側と月100万円のコンサルタント契約を結んだ。その年の10月から今年3月までコモンズに多額の資金が流れ込んだ。

 AOKIは18年10月にスポンサーとなり、エンブレム付きスーツなど3万着以上を売り上げたとされる。スポンサー選定は組織委と代理店契約を締結した電通が企業を集め、組織委のマーケティング局を経由して幹部が決定。理事会は報告を受けて、了承していた。

 特捜部の任意聴取に高橋容疑者は、受領した資金はAOKIの事業全般に関する正当なコンサル料だったとし「オリンピックでは協力できないと伝えた」と説明。青木容疑者は「高橋さんの人としての力に期待した」とし、理事の職務に関係する資金との認識はなかったと述べたとされる。

 関係者によると、高橋容疑者はAOKI側にスポンサーにならないかと打診し、スポンサー料が安ければとの回答を受けて、組織委マーケティング局の幹部に紹介。また同じ幹部にライセンス商品の審査を急ぐよう求めたという。この幹部は電通から出向していた。

 青木容疑者は「ライセンス商品販売のため、高橋氏の力がほしい」との内容のメールを部下から受け取っていた。

 東京五輪では史上最大規模となる約3700億円ものマーケティング収入を確保。背景には数多くの上場企業と深い関係を持つ電通の圧倒的な集金力があった。組織委内には「電通と取引があるところしか協賛できないのはおかしい」との声もあったが、電通頼みは変わらなかったという。

 その電通を高橋容疑者がどのように動かしたのか解明が待たれるが、併せて大会の在り方を見直すきっかけとしたい。