母子家庭の困窮が深刻だ。子育て支援に取り組むNPO法人が先月、今夏の食料支援を申し込んだ2千世帯余りを調査したところ、5割が新型コロナウイルスの感染拡大前と比べ収入が減ったと答えた。その中で母子家庭はコロナ禍以前から収入が低く、平均稼働所得は子どものいる全世帯の3分の1程度とする国の調査もあった。

 母親の多くはアルバイトやパート、派遣社員など非正規で働く。感染拡大が長引く中、景気悪化のあおりをもろに受けてしまい、解雇や雇い止めに遭ったり、勤務時間の短縮などで収入が減ったりした。そこへ、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけとする物価高騰が追い打ちをかけた。

 カップラーメン、冷凍食品といった加工食品や調味料から菓子類まで値上げが相次ぐ。各地にあるフードバンクは企業や個人に賞味期限切れが迫った商品などを寄付してもらい、生活困窮世帯や子ども食堂に無料提供しているが、寄付が集まりにくくなっているという。提供を希望する世帯は増え続けており、寄付の確保に追われている。

 そんな中、母子家庭をいかに支えるか。政府は物価高対策に低所得世帯の子ども1人当たり5万円の給付などを盛り込んだ。ただ2年前の特別定額給付金も含め、一時しのぎの感は否めない。児童手当見直しや親の就労支援など、継続的な支援の拡充が求められる。

 災害や病気、自殺で親を亡くしたり、障害で親が働けなくなったりした子どもを奨学金の貸与や給付などで支援する民間非営利団体「あしなが育英会」は4月から5月にかけ、奨学生の保護者約2千人にアンケートを実施。コロナ禍や値上げラッシュの影響を尋ねた。

 「ここ2年は入浴も週に1度。食事は1日に食パン1枚とバナナ1本のみ」「母子手当とフードバンクで生活していて、私はほとんど食事をしない」「今までも節約していたが、もう、これ以上の節約は無理」。悲痛な声があふれ、そのほとんどが、いわゆるシングルマザーからのものだ。

 保護者の平均月収はコロナ禍前の2018年でも手取り12万円に満たず、今はさらに減っているとみられる。育英会は以前の調査に比べて食事に関する記述が増えたと説明。「過去半世紀で一番ひどい」としている。

 コロナ禍2年目の昨年12月に内閣府は、子どもの貧困を巡り中学2年生と保護者の5千組を対象に初めて実施した全国調査の結果を公表した。2715組から回答があり、全体としては▽生活について「苦しい」と「大変苦しい」とを合わせて25・3%▽「食料を買えなかった経験があった」11・3%▽「衣服を買えない経験があった」16・3%―となっている。

 ここから母子家庭の回答のみを拾うと、それぞれ質問項目の順に53・3%、32・1%、41・0%で、いずれも全体の数字を大きく上回った。さらに進学希望で「大学またはそれ以上」と全体の50・1%の子どもが答えたが、母子家庭の場合は32・2%にとどまった。

 親の収入などから、進学を諦めるケースもあるとみられる。母子家庭は、調査時より厳しい状況に置かれているとみた方がいいだろう。「親ガチャ」という言葉もはやっているが、「貧困の連鎖」が子どもの将来に影を落とすのは何としても避けなくてはならない。