短歌 寺井淳選

椎茸の原木の下ウィスキーの空瓶ありて父を偲びぬ        大 田 三谷 彩子

 【評】椎茸の原木とウィスキーの空瓶、この二つの具体が作者の父上の風貌を彷彿(ほうふつ)させます。歌を誰もが同じ一般論にしないための、大切な目の付けどころです。

引き揚げの釜山の宿に水もなく途方に暮れし また夏が来る     松 江 松本 晴子

 【評】「また夏が来る」は慣用句で、どんな句にも付くので、普通は避けるべきですが、一方で読者におのおのの夏の感慨を喚起させます。〈唱和〉することも短...