JR出雲三成駅(奥出雲町三成)にトロッコ列車「奥出雲おろち号」が停車する約20分間は、乗客のショッピングタイムになる。お目当ては駅舎内の「仁多特産市」に並ぶ品々。このうち「抜群においしい」と店長の上田幸敏さん(63)が胸を張るのが奥出雲町産の新鮮野菜だ。
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1932年開業の出雲三成駅の駅舎は、2001年に改修され、コンビニエンスストア(現奥出雲観光協会)とともに新たに入ったのが特産市だ。
トマト、ナス、キュウリなどの朝どれの新鮮野菜、ブランド米の仁多米、そば、町内でしか店頭販売していない町産シイタケを使った「しいたけ醤油(しょうゆ)」などが目を引く。
おろち号を含む列車の乗客のほか、国道314号に面する町内外からのアクセスの良さから車でやって来る観光客も多い。さらに町民からも支持され、合わせて年間6万人が訪れる地域の交流拠点だ。
「ありがとうございましたー」と張りのある声を響かせる上田さんが、地元野菜のおいしさの理由をこう語る。
「奥出雲は水と空気がいいことはもちろん、山あいで昼と夜の温度差が大きい。それが光合成と呼吸のサイクルの円滑さにつながっている」
三成出身で、松江農林高校卒業後、青果店勤務を経て仁多町農協(現JAしまね)で40年勤務。詳しく、熱のこもった説明に経歴と地元愛がにじむ。
スーパーで売られている野菜との差別化、町外への情報発信など、やるべきことは多く大変だ。生産農家への注文がつい厳しくなることもある。それもこれも「農家と消費者をつなげる」という役割を果たすため。少子高齢化が進む地域の今と将来を見据え、品質勝負で駅の店頭に立つ。
(山本泰平)
=土曜日掲載=