小麦の風味が豊かに香るパンが人気の「ベーカリーBOC」(出雲市姫原3丁目)。商品の特徴やこだわりを聞いた
小麦の風味が豊かに香るパンが人気の「ベーカリーBOC」(出雲市姫原3丁目)。商品の特徴やこだわりを聞いた

 4月にオープンしたパン屋「BOC(ビーオーシー)」(出雲市姫原3丁目)は、自家製発酵種を使った風味豊かなパンを販売している。小麦の風味が豊かに香る、もっちりとした食感のパンが人気を集めているという。商品の特徴やこだわりを聞いた。(Sデジ編集部・宍道香穂)

▷クロワッサンや食パン人気

 店主の金子祐介さん(53)と妻の春菜さん(41)がフランス風の製法をアレンジしながらオリジナルの食パンやクロワッサン、惣菜パンなどを並べている。

 看板商品はクロワッサン。旬の果物を使ったデニッシュや独特なネーミングの「斐伊川食パン」「出雲食パン」も目を引く。金子さんは「フランスでは食品の名前にゆかりの土地の地名を付ける風習がある。こっち(出雲)でパンを作るなら出雲や斐伊川を商品名に付けようと決めていた」と食パンの名前の由来を話した。

看板商品のクロワッサン。きれいな焼き色が印象的で、かむたびに小麦の風味や甘みが口に広がる。外側はサクッと、中はもちもちの食感が楽しめる

 看板商品のクロワッサンと人気の食パンを食べてみた。表面がつやつやとして、きれいに焼き上がったクロワッサンは、見た目だけでもおいしそう。一口食べると、サクッとした食感と香ばしい香りを感じる。内側の生地はもちもちとしていて、小麦の風味と優しい甘み、バターのまろやかな香りが口に広がる。外はサクッと、中はもちもち。シンプルだからこそ、食感の楽しさや素材の風味を存分に楽しめるパンだと思った。

 「斐伊川食パン」と「出雲食パン」はそれぞれ異なる材料を使い、同じ食パンでも味わいの違いを感じられるように仕上げている。当日に焼き上がった食パンはまだ柔らかく、トーストせずにそのまま食べてみた。
 ふわりと柔らかい口当たり、小麦の甘さや香りを感じる。砂糖や牛乳が入っている「出雲食パン」はやさしい甘さで、ジャムなどを付けなくても十分に満足感がある。朝食だけでなく、甘い物が食べたい時のおやつにもぴったりなパンだと感じた。「斐伊川食パン」はシンプルながらもバターのコクや小麦の風味を感じられる味わい。トーストにしてもおいしそうだし、ジャムやあんこ、ハム、チーズなど、どんな食材とも相性が良さそうだと感じた。

食パンは優しい甘みがある「出雲食パン」(左)と、バターのまろやかな味わいが特徴の「斐伊川食パン」の2種類を用意している

 BOCのパンは「ルヴァンリキッド」という自家製の液状発酵種を使っているため、一般的なドライイーストを使うクロワッサンと製法が異なるという。クロワッサンは3~4分ほどこねるのが一般的なのに対し、BOCのクロワッサンは高速回転で11~12分間、生地を混ぜる。バターは「香りが強すぎず品のある味わいのものを」と、乳酸菌を添加した発酵バターを使用している。

 また「斐伊川食パンは、バターが入っていて食べやすい食パンだと思う」と紹介する。北海道産小麦の味や香りを感じられるのも特徴という。砂糖や牛乳を使って甘めに仕上げた「出雲食パン」については「リッチな味わいに仕上げている」と話した。

▷自然豊かな地で独立

 金子さんは福岡市出身で、パン製造会社の社員として14年間、製造や商品管理に携わった。同じ会社で出会った春菜さんと結婚後、自分の店を持つことを考えるようになり、春菜さんの地元、出雲で店を開くことを決めた。会社員時代は転勤で北海道、沖縄、東京、愛知、福岡など日本各地に在住したが、島根に住むのは初めての経験。

「ベーカリーBOC」店主の金子祐介さん(53)と妻の春菜さん(41)

 移住した当初はパンの材料を集めるのに苦労したという。個人での仕入れは会社単位での仕入れと比べて割高になるが、理想のパンを作るため材料にこだわった。都会地にしかないものはインターネットで生産者に問い合わせて送ってもらい、小麦、生乳、バターといった必要な材料を集めている。

 金子さんは「曇りの日が多いと聞いていたが、想像以上に多くて驚いた。夕方などに雲の隙間からのぞく太陽の光が幻想的で好き」と、出雲への印象を話した。また、斐伊川沿いでサイクリングをすることもあると言い「川沿いの景色が良くて気に入っている」と話した。

▷風味の豊かさ 秘密は自家製酵母

 パンには専用機械で作る自家製酵母を使う。ライ麦粉と小麦粉、湯を混ぜて作る「ルヴァンリキッド」という液状の発酵種を作って、パンに使用している。ルヴァン種には酵母菌やさまざまな乳酸菌などが含まれ、パンに複雑な味わいをもたらす。そのため、ルヴァン種を使ったパンは風味の豊かさが特徴。

食パンやクロワッサンのほかにも、バゲットやデニッシュ、ソフトパンなど約30種類のパンが並んでいる

 ドライイーストを使ったパンは科学的に発酵をコントロールできて手軽だが、含まれる菌はイースト菌だけで、深みのある味わいを出すことは難しい。金子さんは「どちらが良い、悪いというわけではない」とした上で、自分の理想とするパンにはルヴァン種を使いたいと考えたと説明した。

 金子さんは「ひと昔前は自家製酵母のパンというと、すっぱい、固いと言われることが多かった」とするが、近年、新たな製造方法が生み出されるにつれて、自家製酵母でも酸味や固さを感じないパンが作れるようになったという。自家製酵母の酸味や渋みは、発酵時間の長さが主な要因。技術が発達して発酵時間が短縮され、独特の酸味や固さを抑えられるようになったという。

甘いパン、食事系のパンと、バリエーション豊富にそろえているが、ハードパンやフランス風サンドイッチなど、今後さらにメニューを充実させるのが目標という

 現在は多くの人になじみがあり食べやすいソフトパンを多く並べているが、フランス風のパンといえばバゲットなどのハードパンが主流。金子さんは「ゆくゆくはハードパンのバリエーションも広げ、おいしさを広めたい。フランス風のサンドイッチも並べてみたい」と目標を話した。伝統的な製法を軸にしながら、こだわりを出したアレンジや地域性を感じられるBOCのパン。新商品の登場が楽しみだ。