映画「国宝」の公式ホームページ画面
映画「国宝」の公式ホームページ画面

 今年、劇場で観賞した映画で印象に残ったのは、興行収入の記録を塗り替えた『国宝』だった。3時間、トイレ休憩もせず集中できたのも個人的には記録だが、他にも記憶に残る作品があった。

 一つはアメリカ映画『さよならはスローボールで』。ストーリーは単純だ。ある田舎町、取り壊し間近の球場で中年のおじさんたちが草野球をするだけの話。小学校の校庭や神社の庭で暗くなるまでボールを追った、子どもの頃の記憶がよみがえった。

 折しも現実のメジャーリーグではドジャース旋風が起きていた。こちらはお金と名声、スピードとパワー全開のスポーツビジネスの世界。映画が描いたのはそれとは逆の、野球の母国アメリカに流れるゆったりとした時間だ。

 『落下の王国』も素晴らしかった。簡単に偽物が作り出せるコンピューターグラフィック(CG)には頼らず、24カ国を旅して撮影。ナミビア砂漠などの映像美と石岡瑛子さんの衣装デザインが脳裏に焼き付いた。配給停止後17年ぶりに再上映された作品で、東京の劇場では満員札止めになった。

 そういえば『国宝』はスロースターターで、封切り後にじわじわ話題になった作品。早送りで映画やドラマを観(み)る若者もいるこの時代に、この3作品には、早送りでは魅力は伝わらないという共通点がある。観客の心にゆっくりと伝わる映像と物語、そしてその余韻。今年は良い作品に巡り合えた。(裕)