4日のホーム戦後、マイクを握ってファンに思いを伝える垣根拓也主将(左)。右は宮滝譲治社長=松江市上乃木10丁目、松江市営陸上競技場
4日のホーム戦後、マイクを握ってファンに思いを伝える垣根拓也主将(左)。右は宮滝譲治社長=松江市上乃木10丁目、松江市営陸上競技場

 日本フットボールリーグ(JFL)のFC神楽しまねを運営する松江シティFC株式会社(松江市灘町)が資金難に陥り、選手、スタッフの給与が未払いになるなど、先の見えない経営状況が続いている。7月下旬以降、企業や個人から支援金を募り、500万円以上が寄せられる一方で、同社からサポーターや地域に対し、クラブの現状や対策、今後の方向性について説明が尽くされているとは言い難い。 (報道部・原暁) 

 「『このまま選手と共に走り抜ける』って、どうやって走り抜けるのか」

 「どう改善していくかをもっと伝えないと」

 4日、松江市営陸上競技場であったホーム戦後、駆け付けたファンに継続的な支援を求めた宮滝譲治社長に、そばで聞いていた垣根拓也主将、佐藤啓志郎副主将が詳しい説明を促した。

 同じような内容を繰り返し、さらに続ける言葉を探す社長に代わり、垣根主将がマイクを握り「先の見えない厳しい状況だが、僕たちは100%で戦っていく」と力を込めた。

 選手のサッカーに懸ける思いで、何とかチームが保たれている。そんな印象が残る場面だった。

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 松江シティFCは前身のNPO法人を引き継ぎ2017年4月に設立された。将来の「J参入」を掲げ、19年に中国リーグ(地域リーグ)からJFLに昇格を果たしたが、経営は苦しくなる一方だった。

 アウェー戦が中国地方から全国へと広がったことで遠征費が増え、チーム強化のため選手獲得に資金をつぎ込む中、新型コロナウイルス感染拡大により試合数が半減したことが経営に追い打ちをかけた。

 決算は19年が約9700万円、20年が約8200万円、21年が約1億円の赤字で、債務超過が続く。22年も約5300万円の赤字を計画。21年にも一度、スタッフの給与支払いの遅れがあったが、今年6月以降はついに、選手にも遅配や未払いが生じるようになった。

 現段階で、同社は「再建」を目指し、スポンサー営業の強化や経費削減、新たな収入源の確保に取り組むとする。7月下旬からは一般の資金援助(目標5千万円)を募り、全国から支援金535万9千円(8月17日現在)が寄せられた。

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 支援金は7月分給与(40%分のみ)や運営資金として活用したと、ホームページで「報告」された。

 しかし、これで十分だろうか。5年前から応援する松江市内の30代女性は「今後どういうふうに経営していくかを明確にしてもらいたい」と訴える。

 クラブ経営などスポーツビジネスを専門とする東洋大の谷塚哲講師は「自分たちが地域のためにできることや、ギブ・アンド・テイクの存在になれることを示していく必要がある」と指摘する。

 援助を求めるばかりでは早晩行き詰まる。「地域密着」のJリーグの理念に照らし、再建への道がどれほど厳しいものでも、現状や課題、そして目標の共有から始めるべきではないか。4日のホーム戦は、その絶好の機会だった。

 チームは7月以降、JFL参入4季目で初めて4連勝するなど、4勝1分け2敗の好成績だ。アウェー戦当日のバス移動を強いられながら、選手は「このチームのサッカーが好きだ」「応援してくれる人たちのためにも」という思いをピッチで表現している。

 選手の踏ん張り、ファンの期待や支えに、まず十分な説明で応えることが、ギブ・アンド・テイクの関係づくりの第一歩だ。