中国共産党の第20回党大会が北京で開幕した。異例の3期目続投が確実な習近平総書記(国家主席)は活動報告で、今世紀半ばまでに米国に比肩する社会主義近代化強国を目指す国家目標を内外にアピールした。
だが、米中の覇権争いは激化し、バイデン米政権は初の国家安全保障戦略(NSS)で中国を「唯一の競争相手」と位置付けた。米国を中心とした民主主義陣営の対中包囲網は強まる一方だ。
国内では厳しい「ゼロコロナ」政策で自由を奪われた国民の不満がくすぶり、新疆ウイグル自治区や香港の人権弾圧への反発も根強い。習氏1強の弊害が生じる懸念も出ており、習政権が抱える内憂外患は深刻だ。
中国はいずれ米国を抜いて世界一の経済大国になるとみられるが、世界に歓迎される新興大国となるには、国際協調と政治の民主化、公正な経済制度が不可欠だ。長期政権を握る習氏は国際社会と敵対せず、信頼の醸成に努めるべきだ。
香港メディアによると、党大会前の北京で「文化大革命は不要、改革が必要」と記された横断幕が掲げられた。毛沢東が起こした政治運動、文革の混乱を取り上げ、毛のような強い指導者を目指す習氏を皮肉った。
習政権は2020年に香港国家安全維持法を施行、民主派を弾圧し香港の「一国二制度」を空洞化させた。習氏は「『愛国者の香港統治』により、混乱を鎮めた」と成果を誇示したが、自由と民主主義を奪われた香港市民の不満は大きい。
今年9月、エリザベス英女王の国葬に伴って英総領事館前に集まった市民たちは中国・香港政府に抗議する歌を合唱したという。
習氏は10年前に総書記就任後、国家安全戦略に力を入れた。人権派弁護士を大量に拘束し、ウイグル族など少数民族を締め付け、インターネットなどの言論統制を強めた。だが、国民の口を封じる強権的な手法で、長期に国内の安定を維持するのは難しいだろう。
8月、中国はペロシ米下院議長の訪台に反発し、台湾周辺で大規模な軍事演習を行った。習氏は「祖国(中台)統一の大業を推進する」「できる限り平和統一を目指すが、武力行使の放棄は決して約束しない」と言明した。だが、米政権のNSSには「台湾海峡の平和と安定は米国の永続的な国益」と盛り込まれ、統一への道のりは遠い。
習氏は報告で「中華民族の偉大な復興」に向けて、建国100年を迎える2049年までの「社会主義近代化強国」「世界一流の軍隊づくり」などの目標を改めて強調した。国際社会は中国の野心に警戒を強める。
一方で、習氏は「世界の平和を守り、人類運命共同体の構築を促進する」「決して覇権は求めない」とも訴える。美辞麗句に終わらせず、平和主義を貫き、地球温暖化対策などで協調を進めてこそ、国際社会の信頼を得られるだろう。
大会では党規約改正で「二つの確立」が盛り込まれるもようだ。これは「習氏の全党の核心としての地位」と「習思想の指導的地位」の確立を意味し、習氏の1強体制はより強固になる。
国連安全保障理事会の常任理事国であり、経済力、軍事力を着々と強める中国の動向は、世界と地域の平和と安定を左右する。最高実力者、習氏の責任は極めて重い。