世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を巡り、岸田文雄首相が宗教法人法に基づく質問権の行使に向けて対応するように、永岡桂子文部科学相らに指示した。同法の調査権限行使は例がなく、結果次第では教団に対する解散命令の請求につながる可能性もある。
首相は従来「信教の自由」を理由に命令請求には慎重だったが、調査権限の行使を提言する消費者庁有識者検討会の報告書がまとまったことなどもあり、一歩踏み込んだ格好だ。
宗教法人法も権限行使に際しては、信教の自由に「特に留意」するよう義務付けている。憲法が保障する権利に配慮することは当然のことだが、信教の自由も無制限ではあるまい。
反社会性が指摘される教団に、解散命令に該当する事由が存在するのか、否か。調査では、法令に違反する活動の有無を中心に問題点を徹底的に洗い出してもらいたい。
質問権などの宗教法人に対する調査権限はオウム真理教による地下鉄サリンなど一連の事件を受けた宗教法人法改正(1996年施行)によって新設された。
もともと宗教法人を所管する文科相などは「法令に違反し、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる」ときは裁判所に解散命令を請求することができたが、その疑いがある場合に調査する権限を新たに認めたものだ。解散命令請求の前段階で違法行為を防ぐ目的とされる。
法令違反を理由にする解散命令は過去に、オウム真理教と、霊視商法詐欺事件の明覚寺(和歌山県)に対する2例があるが、オウム真理教は法改正前だったし、明覚寺事件では調査権限は行使されなかった。
解散命令が確定した宗教法人は、法人格や税制上の優遇を失うが、宗教団体として活動することはできる。
旧統一教会を巡っては、霊感商法や高額献金などで教団側の違法を認める司法判断が多数積み重ねられている。信者の不法行為と教団の使用者責任を認めた最高裁判例があるほか、教団自体の組織的な不法行為を認めた裁判例も複数存在する。これらが「宗教法人の行為」と言えるのか、調査で詰めてもらいたい。
9月に設置された政府の相談窓口には、1700件以上の被害相談が寄せられたという。
また、安倍政権下の2015年に教団の名称変更を認めた経緯や、自民党を中心とする多数の国会議員、地方議員と教団との接点に、何らかの法令違反はないのか、詳細に調べるべきだ。
調査の実務は、文科省外局の文化庁が担うことになる。25日には質問権行使の基準などをまとめる専門家会議を開催する。過去に経験がない調査に、文化庁だけで対応するのは困難ではないのか。法務省から複数の検事を出向させるなど、態勢強化の知恵も絞ってほしい。
消費者庁有識者検討会の報告書は、ほかに(1)消費者契約法が定める取り消し権の対象範囲拡大と行使可能期間の延長(2)寄付や献金の一般的な禁止規範を規定し、違反した場合に無効とする法整備(3)宗教2世の支援―などを幅広く提言している。
岸田首相が示した積極姿勢が、続落する内閣支持率の改善を図る狙い―などと言われることがないように、本気で取り組んでもらいたい。