伝統芸能の振興に貢献した全国の個人・団体に贈られる地域伝統芸能大賞で、神楽衣装作りを60年以上続ける川邊志津枝さん(84)=浜田市熱田町=が「支援賞」を受賞した。これまで石見地域をはじめ中国地方の神楽社中からの依頼で3千着以上を制作。中学卒業から独学で一針一針縫ってきた人生を振り返り「生まれ変わっても今の仕事がしたい」と話す。 (宮廻裕樹)
地域伝統芸能大賞は一般財団法人・地域伝統芸能活用センター(東京都)が1993年から毎年主催。保存継承▽活用▽支援▽地域振興―の4分類があり、それぞれ1個人・団体が選ばれる。川邊さんは郷土芸能を支えたとして支援賞に選ばれた。
川邊さんは旧満州(現中国東北部)出身。戦後、父の生家がある浜田市で暮らした。山仕事にいそしみ貧しい家計を支える中、16歳で神楽衣装を作り始めた。中学卒業後、神楽衣装店を開くという父の知人に「手伝わないか」と誘われた。幼少期から奉納神楽に魅了された川邊さんは二つ返事で引き受けた。
指導者はおらず昔の衣装を見ながら寝る間を惜しんで腕を磨いた。ただ収入は少なく、結婚や夫の転勤を機に県外で歯科衛生士や会社員も経験した。一時、制作現場を離れたが、石見地域に神楽の衣装屋が少ないことを踏まえ、磨いた技術を生かし伝統を守ろうと浜田に帰郷。73年に「福屋神楽衣裳店」を立ち上げた。
現在、年間30着程度手がけており、龍や虎など生き物の刺しゅうは「出来栄えで作品の生死が決まる」とこだわる。迫力を出すため生き物の目には、壊れにくいプラスチックではなく、輝きが増す高価なガラスを使用。糸がゆるむと色あせて見える金糸も、張り詰めて光沢を維持させる技術を身に付けた。
「好きじゃないと決して続かない仕事。出来上がった衣装を舞台で見るのがやりがいになる」と川邊さん。今は2人の弟子を指導しつつ、100年後も着られる衣装を作るため針を動かす。
地域伝統芸能大賞で、今回30回目を記念し設けた特別賞には浜田商業高校の郷土芸能部が選ばれた。