少子化や競技人口の減少を受け、少年野球を巡る指導や環境が様変わりしている。最低9人のメンバー確保は容易ではなく、各チームは活動を支える保護者の負担軽減や家族の時間を大切にするニーズへの対応に試行錯誤。出雲市内のチームは楽しさを重視し、練習量は最小限に。松江市の強豪チームは保護者の当番制を廃止するなど、これまでと異なる形を取り、高みを目指す。 (井上雅子)
「うまくボールが捕れたね。いいよ」
ある日曜日の午前、出雲市内の河川敷。着慣れない大きめのユニホームで白球を追う児童一人一人に監督やコーチが笑顔で声をかけ、ハイタッチした。
2020年に発足したばかりの出雲市内の少年野球チーム「雲州レッズ」はチーム理念として、(指導者が)怒らない▽保護者は参加自由▽旅行や家族のイベントなどを優先してよい▽どんな地域からでも入部可能-を掲げる。
練習は毎月第2、第4土曜日と日曜日のみ。いずれも午前中で延長はしない。厳しい指導で勝利を目指す、いわゆる〝スポ根〟は今の社会になじまないとして、児童が野球嫌いになったり、家族の時間を奪ったりしない形を優先する。
監督の田中元気さん(41)は、息子を含めた複数の子が厳しい指導になじめず地元チームを脱退した過去の経緯を明かし、「『緩い』と言われるかもしれないが、野球を好きなままでいられる場をつくりたかった」と話す。
島根県によると、県内の21年の小学生(6~12歳)は3万3162人で20年ほど前の02年に比べ約2割減少した。一方、公益財団法人日本スポーツ協会のまとめでは、島根県内の21年の軟式野球スポ少登録団員数は1353人。同比約4割減で野球人口が急減している。
「小学生の甲子園」と称される全日本学童軟式野球大会に15度出場した松江市の強豪・乃木ライオンズは、伝統を残しつつ時代に合ったチーム運営に方針転換。全国を目指すため週6日間の練習・試合日は堅持するものの、児童を支える保護者の負担を軽減した。
これまで練習や試合に保護者の協力が欠かせなかったが、2年前に選手のけがなどに対応する「保護者当番」を廃止。共働き世帯の増加などを背景に、子どものサークル活動に時間を費やせる保護者が減ったと判断した。
団員は現在1~6年生で計16人。最も多かった時に比べて半減しており、仙田朋之総監督(39)は「乃木ライオンズを残すために、変わらなければならない」とかみ締める。
「野球人口の減少には危機感がある」と話すのは、県軟式野球連盟の今岡一朗会長(74)だ。共働き世帯の増加や、個別の時間を大切にするといった価値観の変化を実感するといい、「今まで通りでは子どもや保護者はついてこない。指導者にもその気持ちが芽生えている」と受け止める。
体格差などが顕著にならないよう、年齢別に分けた練習試合があることに触れながら「野球に興味を持ち続けられる(新しい)大会運営も検討しなければならない」とした。