ゆったりと間隔を空け、物静かに日本-コスタリカ戦の中継動画を見守る客=松江市学園2丁目、HONEY
ゆったりと間隔を空け、物静かに日本-コスタリカ戦の中継動画を見守る客=松江市学園2丁目、HONEY

 サッカーW杯カタール大会1次リーグで日本がコスタリカに敗れた27日夜、松江市内の洋食居酒屋で20人の客が中継動画を見つめ、膠着(こうちゃく)した展開に、じりじりとした時間が流れた。新型コロナウイルス禍前の前回大会時、50人の客でごった返した、あのときの盛り上がりはない。でも同じ場所に集い、心を通わせて応援する喜びをかみしめた。

 松江市学園2丁目の「HONEY(ハニー)」に赤いラインの入った2014年のブラジル大会や、白い線が縦断する18年のロシア大会など、歴代の日本代表ユニホームを着て応援する客らが参集した。

 ほとんどが近所の常連客で、同店など松江市内で居酒屋2店舗を経営する熊野正起代表(40)が誘った人たち。大騒ぎというよりは歓談といった趣だ。

 友人と訪れた会社員山本哲也さん(34)は「4年に1度の大会をみんなで見られるのは楽しい」。コロナ禍がなければアジア予選の段階でこの店に行き、大人数で観戦、応援するのが恒例だった。

 今回のアジア予選は、家で1人、静かに見てきたが、カタール大会1次リーグ初戦のドイツ戦(23日)でようやく店に行けた。ドイツ戦の歴史的勝利の歓喜も、コスタリカ戦の敗北による落胆も、そばにいる仲間たちと分け合う。いつものW杯の時の熱狂とはかけ離れていても、観戦の妙味を再認識した様子だった。

 「いくつか電話で問い合わせがあったが、コロナ対策で人数制限のため断った」。熊野代表が言う。

 コロナ禍で20年3月以降、経営する店は、多くを占めた学生の利用がほとんどなくなった。売り上げは一時期、コロナ前の7割まで落ちた。大きなスポーツイベントがあると店内で動画を投影してきたが、そんなことをしている場合ではなく、長くつらい状況が続いた。

 ただ、客からは観戦機会の復活を望む声が寄せられ、励みにし、ドイツ戦から解禁した。「サッカーは試合を見ながら、良くも悪くもみんなで感想を言い合うのが醍醐味(だいごみ)」。あらためて楽しさを実感した。

 依然としてコロナ禍は続き第8波の感染拡大が懸念される。それでも日本代表を軸とした連帯は変わらない。静かでも、力強く。

  (井上雅子)