新型コロナウイルスの第8波が山陰両県で猛威を振るっている。1日の感染者数が千人を超え始め、確保病床の使用率も半分近くになっている。移動制限のない年末年始をどう過ごせばいいのか、両県のコロナ担当者や医療従事者に聞いた。(Sデジ編集部・吉野仁士)
島根県の月ごとの感染者数は、第7波のピークを迎えた8月が2万7850人。以降、9月は1万1760人、10月は7287人と下降し、1日の感染者数は100~400人で推移した。ところが、11月中旬から感染者数が増え、1日の感染者数が500人を超え始めた。11月の感染者数は1万6564人になり、9月を上回った。

鳥取県も同じく8月の感染者数が、過去最多の2万5525人。9月は8781人、10月は5725人でともに1万人を下回ったが、11月は1万2868人と、再び1万人台になった。

12月に入って両県ともに感染者の増加が顕著になり、島根県では6日、1日の感染者数が3カ月ぶりに千人を超え(1110人)、13日以降は両県で5日連続して感染者千人超えになった。島根県は20日、1日の感染者数が1777人と過去最多を更新し、感染拡大に歯止めがかからない。
この冬は今のところ国からの移動制限はなく、年末年始に帰省や旅行がしたいという人は多いだろう。ただ、第8波の感染はピークを迎えていて、これ以上感染を広げないためにも、対策は必須だ。
▼家族団らんの中でもできる対策を
島根県立中央病院(出雲市姫原4丁目)の感染症科部長、中村嗣医師(59)は「オミクロン株はとにかく感染力が強い。人との交流場面が多い児童生徒や若者の感染を起点に、感染が広がっている」と分析した。一方で、若者が感染しても重症化しにくく、同病院のコロナ入院患者はほとんどが高齢者だという。

感染対策に関しては換気や3密の回避といった、基本的な対策の徹底を改めて呼びかける。中村医師は「無症状でも自身が感染していて、祖父母などに移す可能性があるという意識を持ち、慎重に過ごしてほしい」と注意を促した。家族団らんの中で、大声で話さないといった少しの心がけが対策になるそうだ。
病院では感染者の増加に伴い、繁忙感が増している。島根県内の病床(369床)使用率は55・3%(20日時点)と5割を超えた。また、感染者数が増えて病院職員の子どもや家族が感染することにより、職員が出勤できず、病床があっても人手が足りなくなる事態も考えられるという。実際、県内の総合病院では医療従事者に感染が広がり、病院機能の維持が厳しくなった事例も出ている。
中村医師は「どの病院も頭を抱えている状況だと思う。改めて感染者にならないよう、重症化リスクのある高齢者が感染しないように注意してもらいたい」と話した。若者自身は感染しても重症化しにくいが、帰省先や移動先で感染拡大することで、病床のひっ迫や医療従事者の人手不足につながる可能性がある。
▼両県は医療ひっ迫回避を呼びかけ
島根県によると、20日までの県内の1週間の感染者数(人口10万人当たり)は1210・0人で、過去最多を更新した。年代区分(19日時点)では18歳以下が2509・4人と最も多く、親世代に当たる30~49歳が1526・7人と続き、家庭を通して感染が拡大したとみられる。1週間のクラスター数でみると、全体の45件中、半数の22件が学校や保育施設といった18歳以下が多数を占める場所だった。
県内の発熱外来では小児科を中心に予約が取りづらい状況が生じているという。県は15日の記者会見で、改めて基礎疾患のある人や高齢者、小学生以下の子ども、妊婦以外は受診を控え、検査キットで陽性を確認し、しまね陽性者登録センターに登録することを推奨した。年末年始に向けてさらに感染者が増加する可能性があり、県感染症対策室の長谷川利寿調整監は「医療ひっ迫を防ぐために協力を願いたい」と話した。
県は県外から県内に帰省、または県内から県外に帰省する無症状の人を対象にした無料検査所を12月24日から2023年1月12日まで、県内57カ所に設置する。このほか、全国の主要空港、駅にある検査所も活用できる。

鳥取県の20日までの1週間の感染者数は(人口10万人当たり)は1349・8人。年代区分は直近1週間(12月15~21日)で19歳以下が2444人、次いで40~59歳が1876人と、島根県と同様に子どもとその家族とみられる年代が多い状況だ。確保病床(351床)の使用率は20日時点で45・0%で、徐々にひっ迫し始めている。無料検査所は感染の不安を感じる県内在住の無症状者を対象に、12月22日から23年1月13日まで県内57カ所に設置する。県外から来県する場合は、可能な限り来県前に検査を受けるよう求めている。
県は多くの場合は風邪同様の治療で回復するとし、各家庭で解熱剤や抗原検査キットを活用して対応するよう呼びかけた。年末年始の診療時間外に強い症状が出た場合は、受診相談センターや救急ダイヤルへの連絡を推奨している。相談センターの電話番号は、東部は0857(22)5625、中西部は0857(26)8633。救急ダイヤルの番号は0857(26)7990。
間もなく丸3年を迎えるコロナ禍。当初と比べると、重症化の可能性は下がったものの、基礎疾患を持つ人や高齢者にとっては依然として危険な病気だ。移動制限がない年末年始でも自分がコロナに感染しない、うつさないという意識を忘れないようにしたい。