海上自衛隊の男性1等海佐が国の安全保障に重大な影響を及ぼす「特定秘密」を外部に漏えいしたとして、防衛省は1佐らの処分を発表した。1佐は懲戒免職。また指揮監督義務違反があったとし、当時の海自トップだった前海上幕僚長を懲戒処分の戒告相当、漏えい相手で自衛艦隊司令官を務めた元海将を減給相当とする判断を示した。
自衛隊の捜査機関である警務隊は特定秘密保護法違反容疑で1佐を書類送検した。特定秘密の漏えい摘発は初めて。保護法は2014年12月施行で防衛や外交、スパイ防止、テロ防止の4分野を対象に特に秘匿しておく必要のある情報を特定秘密に指定している。漏えいの罰則は最高で懲役10年となっている。
1佐は別の隊員の仲介で、かつて上司だった元海将に頼まれ、安保情勢を説明。その中に特定秘密が含まれていたとされる。情報が外国に持ち出された形跡は確認されていないというが、日本を巡る安保環境が厳しさを増し、政府が防衛力の抜本強化に動く中、秘密保全という組織運営の根幹が揺らぐ事態になった。
あまりにも、お粗末と言うほかない。今回のように上司・部下、あるいは先輩・後輩の関係を利用した働きかけなどで、防衛省・自衛隊からの情報漏えいは何度となく繰り返されてきた。国の安全を託すに足る組織かどうかが問われていることを肝に銘じるべきだ。
内閣官房がまとめた資料では特定秘密は今年6月末現在、各省庁で計693件が指定されている。防衛省は392件と、その半数以上を占め、電波や画像の情報、自衛隊の部隊運用の計画などが対象となっている。
今回、漏えいされた特定秘密の内容は具体的に分からないが、日本周辺の情勢に関し防衛省などが収集した情報で、自衛隊の運用や訓練の情報なども含まれていたとされる。1佐は当時、部隊運用のための情報収集に当たる「情報業務群」司令。元海将の部下だったことから「強い畏怖の念」があったとしている。
自衛隊による情報管理の甘さはたびたび問題になってきた。07年には、海自3佐がイージス艦の防空システムを扱う幹部向けの教育用資料を持ち出して別の3佐に送り、秘匿度の高い「特別防衛秘密」を漏えいしたとして、日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法違反の疑いで逮捕された。外部への流出は確認されなかったものの、米国が開発したイージスシステムに関わる事件だったため日米安保体制への悪影響も懸念された。
15年にも、陸上自衛隊の元陸将がかつて部下だった現役の陸将に依頼して、自衛隊の教本を入手。在日ロシア大使館で勤務していた情報機関員に渡した事件が起きた。
自衛隊幹部は退官後に防衛関連産業に天下りすることが多いが、経験を生かし、メディアに安保政策を解説することもある。自衛隊にとっては日々の活動に国民の理解を得る助けになるが、現役とOBとの間で共有できる情報の線引きをきちんとする必要があろう。
情報管理の徹底が求められている。ただし特定秘密はそもそも定義があいまいで、政府によって指定が恣意(しい)的になされたり、秘密の範囲が無制限に広がったりして、国民の「知る権利」の侵害につながりかねないという批判が根強くあることを忘れてはならない。