鉱石を探して世界を旅する広沢瑛介さん=出雲市佐田町須佐、アトリエルチ
鉱石を探して世界を旅する広沢瑛介さん=出雲市佐田町須佐、アトリエルチ

 出雲市佐田町須佐にある宝石店「アトリエ ルチ」のオーナー広沢瑛介(えいすけ)さん(34)は美しい石を求めて世界を駆け巡っている。海外を旅して石の研磨や加工を追求し、自分のやりたい道を突き進む。全国で個展を開いたり、ワークショップで活動するなど鉱物の魅力を伝えている。 (出雲総局・佐野翔一)

 鳥取市出身の瑛介さんは東日本大震災をきっかけに自分の生き方を見つめ直し会社員を退職。海外で旅をしたいと考えていたところ友人に勧められた「バックパッカーのバイブル」と呼ばれている紀行小説『深夜特急』を読んだことをきっかけに2014年に東南アジアへ旅に出た。
 
 ▼ネパールで出会う

 鉱石に出会ったのはネパールの道端にあった宝石店だった。鉱石を糸で編んで作るマクラメ編みの美しさに一目ぼれ。ものづくりをしたことがなく不器用だという瑛介さんだったが、自分で何かを作り出したいという思いから挑戦を決意した。細かい作業に苦戦するも現地の人に教わりながら、朝から晩まで毎日石に向かい続けた。

アメリカ産の鉱石「ロードクロサイト」を使ったマクラメのネックレス

 その後もメキシコやスペイン、タイ、インドなど19カ国に石を求めて旅を続けた。

 広沢さんが出会った印象深い鉱石の一つはブラジルの結晶石「蝕像(しょくぞう)アクアマリン」。熱水や圧力などの環境の変化で表面がへこみ、結晶の中に気体や液体など不純物が入ったインクルージョンと呼ばれる。角度によって雪景色のような神秘的な表情を見せるのが特徴だ。
 

アトリエルチで販売する鉱石

 そのほかには、ヒマラヤ山脈に属するガネーシュヒマール産の水晶。ネパールの首都カトマンズから産地の村までバスで5時間、ヒマラヤ山脈の峰を1日半かけて渡り歩いて購入した。美しい鉱石を求めて直接、自分の目で確かめる。

広沢さんが磨いたネパール産の水晶「クローライトインクオーツ」

 2015年にパートナーの朝美さん(42)と出会い、半年は海外で材料を調達し、制作。残りの半年は個展や作品展に出展するために日本で過ごす生活を一緒に繰り返した。

 ▼美しさ引き出す

 2017年4月に拠点を作ろうと出雲市佐田町にある母方の祖父の家を改装しアトリエを開いた。現在は主に石の研磨を中心に活動し、販売している。カメラマンだった朝美さんは作品の写真を撮りオンラインサイトに載せたりして管理をしている。

 「同じ石は一つもない。だからこそ面白さがある」と瑛介さん。「研磨はマクラメとは違い引き算の作業。鉱石の美しさを引き出せるように極めたい」と意気込む。

 

出版した書籍『美しいインクルージョンの鉱物図鑑』

 10月には宝石の中に模様が入った「インクルージョン」の魅力を伝える書籍「美しいインクルージョンの鉱物図鑑」(エクスナレッジ)を出版し、活動を広げている。